<西武5-10ロッテ>◇29日◇西武ドーム

 コロッケがカツに。ロッテ香月良仁投手(26)がプロ入り初登板初先発で、西武を5回8安打4失点に抑えて初勝利を挙げた。2回には審判団から2段モーションを指摘されて反則投球を取られ、2回以降も毎回走者を背負った。ピンチの連続だったが、社会人時代にスーパーでコロッケを揚げながら野球を続けた根性で切り抜けた。ともにプロ野球選手を兄に持ち、初先発同士という珍しい対決を制し、チームを首位返り咲きに導いた。

 これまで幾度となく試練を乗り越えてきたロッテ香月にしてみれば、これくらいは許容範囲だった。5回、2点を失いなおも2死満塁。1発が出れば1点差に詰め寄られる場面だったが、西武上本に果敢に内角高め直球を投じた。「バッターにビビることだけはしたくなかった。全力で投げた」と振り返った。結果はバットをへし折る一邪飛。勝ち投手の権利を手にする5回を力でつかみ取った。

 小野と川越の離脱で巡ってきた1軍初先発のマウンドだった。2回には2段モーションを指摘され、急きょ仕切り直しとなるアクシデントもあった。直後に連続四球でリズムを崩したが「辛抱、辛抱」とつぶやき、気持ちを立て直した。ナチュラルにシュートしたり、まっスラのようにわずかに動く直球と、低めに落ちるチェンジアップのコンビネーションが身上。強打の西武打線にとららえられそうで、最後までとらえられなかった。

 独特のボールは苦労のたまものだった。高校時代は甲子園に出場したが控え投手。大学、社会人は無名のチームでプレーした。特に社会人時代は野球をしながら、スーパー「鮮ど市場」の総菜売り場に勤務。毎朝7時から8時間コロッケを揚げ、夕方から野球の練習に打ち込んだ。社会人1年目には父富夫さん(享年57)を心筋梗塞(こうそく)で亡くし、さらに右ひじ靱帯(じんたい)断裂。試練の連続に野球を辞めようとしたが、実兄でオリックスの香月良太投手(27)から「プロを目指せ」と言われ、目が覚めた。兄のような球速はないが、日本人投手には珍しいムービングボールで活路を見いだした。

 「兄とやっと同じ舞台に立てた。今から競争という感じです。対戦することがあれば勝ちたい」と頼もしく話した。兄は6試合目で達成した初勝利を、味方の強力な援護もありデビュー戦で手に入れた。今季チーム初の3連敗も阻止し、1日で首位を奪い返した。さまざまな思いが詰まったウイニングボールは「父の仏壇に供えたい」とそっと握りしめた。【鳥谷越直子】

 [2010年4月30日9時25分

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