<西武19-3楽天>◇5日◇西武ドーム

 西武打線が大爆発した。楽天相手に今季両リーグ最多19得点に、3本塁打を含む20安打は今季パ最多。6回には2年ぶりの1イニング2ケタ得点となる10得点を挙げ、先発全員安打もマークした。タイムリー欠乏症に悩まされたゴールデンウイーク9連戦の最後にうっぷんを晴らし、首位ロッテにゲーム差なしの2位タイに浮上。試合の流れを変えたのは、2点差に迫られた6回2死満塁、一塁走者をけん制で刺した細川亨捕手(30)のビッグプレーだった。

 6球連続ファウル。楽天の代打草野は、タイミングが合い始めていた。6回2死満塁。西武2番手の長田が押し出し四球を出し、3-5に迫られてなおもピンチ。1球ごとに熱が入る勝負の行方を、球場の誰もが食い入るように見つめていた時、捕手の細川は冷静に目を光らせていた。9球目を外角に外させ、一塁へけん制。慌てて戻った代走牧田を刺した。楽天に傾きかけた流れを断ち切り、その裏に1イニング10得点を生んだビッグプレーだった。

 「細川、細川」の大合唱と拍手が鳴りやまなかったが、本人は当然といった表情で話した。「最低限のことをしただけ。捕手なんで全体を見渡して、スキがないか見てました」。一塁の石井義は「最初はランナーもコーチも警戒してたけど、ファウルが続いて、ここしかないという時にサインが出た」としてやったり。警戒の薄れた9球目。長田がすべての球種を投げ、打者優勢になりかけた。すべての状況から総合的に判断し、決めたタイミングも絶妙だった。

 何度もできるサインプレーではない。1試合に1度あるかないか。大石バッテリーチーフコーチは「走者には左打者がブラインドになり、捕手の動作が見えにくい。あの状況でまわりがよく見えてた。おれも現役の時にやりたかったけど、なかなかできなかったプレーだよ」と絶賛。湿っていたバットにも火が付いた。打者一巡した6回の2打席目に適時二塁打を放ち、先発全員安打も自ら決めた。

 30歳になり、体も若い時のようにはいかない。2年前に痛めた右肩とひじが万全ではなく、投手との共同作業とはいえ、今季は1試合6盗塁を許す屈辱も味わった。だが経験では負けない。信念をもったリードで投手陣を導き、冷静に的確な指示を出す。左ひざを痛めた銀仁朗が離脱したチームで、日本一を知る司令塔の存在感はやはり大きい。矢のような一塁けん制は、明るい未来を予感させる完ぺきなストライク送球だった。【柴田猛夫】

 [2010年5月6日9時14分

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