<日本ハム3-1巨人>◇19日◇札幌ドーム

 執念がこもった軌跡の行く先を信じ、みんなが立ち上がった。二岡智宏内野手(34)が巨人から放った初アーチ。ドラマチックな一振りが完結した。6回、同点としてなおも2死二塁。ゴンザレスの甘く入ったスライダーを、バットに乗せた。左翼席最前列へ飛び込む決勝2ランは、12球団目のアーチ。観衆3万9738人のスタンディングオベーションを浴びた。ベンチではチームメートから手荒い祝福を受けた。

 プロ入りから10年間、主力を務めた古巣を連破した。思い入れ深い初アーチを、あえて心静かに受け止めた。「何て答えれば一番いいのか分からない。意識はないですね」と言葉を選んだ。紆余(うよ)曲折を経てたどり着いた日本ハムで、記念すべき12球団制覇弾をかけた。バットの先だっただけに「(外野手は)越えたかなという感じでしたけれど、まさか入るとは」と遠くを見つめた。見えない力に押されたかのような、最後の一伸びだった。

 ノビノビした明るいチームカラーにもなじんだ。試合前のロッカー室では、森本らから標的にされ「いじられキャラ」で盛り上げに一役買うこともある。この日のように4番、時には下位打線に代打、そして三塁の守備にも就くなど、複雑な、起用法にも適応した。「昨年の1年があったので、もう慣れてきました」と新しい居場所を見つけた。

 因縁深い一撃が3連勝へとつながった。6回の巨人の先制弾は、遊撃のレギュラーを奪われる形になった坂本。梨田監督は「目の前で坂本が打ったというのもあるだろうしね…」と、二岡の心中を思いやった。交流戦首位タイをキープし、単独最下位から1歩前進する楽天と並ぶ5位タイとする価値ある白星。二岡は「チームがいい状態なので、続けていきたいです」と特別な感情を抑えるように、今だけを見つめた。数奇な運命と向き合ってきた勝負師は、静かにケジメをつけた。【高山通史】

 [2010年5月20日8時37分

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