<楽天5-0ソフトバンク>◇27日◇Kスタ宮城

 マー君、すごいわ。田中将大投手(22)が首位ソフトバンク相手に奪三振ショーを演じた。6安打に抑え、今季3度目の完封となる13勝目(4敗)。自己最多で、プロ野球記録にあと1と迫る歴代2位の毎回18奪三振をマークした。チームは球団記録に並ぶ7連勝で、3位争いから抜け出しそうな勢いだ。

 3回を終えると、星野仙一監督(64)がふらっとベンチ裏に現れた。黙々と肩をつくる中継ぎ陣に「お~い、今日はもういいぞ。こっち来いよ」。直々の休暇指令だった。1週間前、田中の完投後は働きづめだったからだ。山村、小山、佐竹…。連勝を支えてきた先輩たちがベンチに腰かけ、三振奪取を眺めていた。

 「今日はブルペンのみんなに試合を見せてやろうかなぁ。オレの隣にズラッと並んでな」という、試合前の予告はジョークじゃなかった。練習を終えた田中が引き揚げてくると「田中さん、お願いしますね今日は」と最敬礼。「パン、パン」とかしわ手を打って送り出していた。64歳の厳格な監督が崇拝する神様、仏様…、ならぬ田中様だった。

 田中にとって、仲間投手がこぞって見守るという、超レアなマウンドになった。「プレッシャーもあったけど、1つ1つのボールが良かった。三振は別に狙ってたわけじゃないですが」。立ち上がりから大きすぎる縦軌道のスライダー、スプリットでもてあそんだ。内川を3三振。「回を追って調子が上がり」、8回2死からの空振りは150キロを見せた後のスライダー。球界最高の右打者が、腰を思いきり引いてしまう軌道だった。

 内川斬りの時点で奪三振15。森山コーチに「あと3個で日本タイ記録だぞ」と送り出された。小首をかしげ最終回に向かいキッチリ3個上乗せ、雄たけびでフィニッシュした。「最後は狙いました。でも…、間違いですよね。野田さん。19個ですよね。負けました」と人懐こい笑顔だった。奪三振日本記録に並べなくとも、チームの連勝は7。球団記録に並んだ。

 三振記録は二の次、が本音だろう。田中は星野監督一流のジョークの真意を、重々承知していた。ブルペンを休ませる命題。強調したのは「今日は完投するつもりで投げました。絶対、1点も与えないつもりで」だった。完封。しかも紛れのない内容で。積み重ねた三振の山は、責任感の自己表現だった。

 ちょうど1年前、同じ球場、相手に完封した。ふがいないチームを憂い、意識して叫び、力任せに無理やり封じ鼓舞した。代償は右大胸筋断裂。残り試合を棒に振った。「あれから成長してるか、周りの人の声を聞いてみたいですね。自分としては投球のバリエーションが増えてると思うけど。でも、周りの人の声を聞きたい」と田中は言った。

 前夜、田中の登板を飛び越し、中4日で好投した塩見が、こんなことを言う。「田中は本当にすごい。登板間隔や球数なんて関係ない。必ずチームに力を与える投球をする。最高の目標がいる楽天に、僕は入って良かった」。投げるたびに得る仲間からの信頼。この夜の18奪三振も年輪のように積み重なり、楽天の歴史を彩っていく。【宮下敬至】