<ヤクルト1-3阪神>◇5日◇神宮

 苦しんだ男の涙、すがすがしいですなあ。阪神安藤優也投手(34)が595日ぶりの復活勝利を挙げ、涙をこぼした。7個のゼロを並べた好投に至るまでは、語り尽くせぬ苦闘、苦悩があった。この右腕がローテーションに収まることは、和田阪神にとってとてつもなく大きい。今日から甲子園で行う巨人3連戦を前に、大きな弾みがついた。

 安藤の胸に万感の思いがこみ上げる。両目から熱いものがとめどなく流れる。もう言葉にならなかった。「感無量です…。久しぶりの感触だった。うれしかった。あの…。いろんな人に支えられて感謝しています…」。7回無失点の快投で10年8月19日横浜戦(横浜)以来、595日ぶりの復活星を飾った。

 1回からアドレナリンが全開だった。先頭田中への初球で、この日最速の146キロを計測。だが、その後は一転してスライダー、シュートなど変化球をコーナーに集める。3、5回は先頭打者の出塁を許しても、次打者をともに外角スライダーで併殺に料理。5回までは毎回、安打を浴びながらも得点を与えない。「粘り強く投げるのが自分の信条なので」。プロ11年目のベテランらしく、丁寧な投球術が光った。

 昨季は右肩痛など故障に苦しみ、わずか1試合の登板にとどまり、シーズン終了後の安芸秋季キャンプも志願参加。年末まで寒風吹きすさぶ鳴尾浜でブルペン投球を継続した。安藤には心に刻んでいる言葉がある。故郷・大分の実家の居間には1枚の色紙が飾られている。母方の祖父・伊東久吉さんが力強い達筆で「忍耐」としたためたものだ。「プロに入ったときかな。字を書くのが好きだったから。新聞を切り抜いたり、テレビで応援してくれた」。08年12月に他界した祖父との絆は今も息づいている。

 和田監督にウイニングボールを渡そうとすると、突き返された。同監督から「安ちゃんが復活したら本人もうれしいし、チームにとっても大きなことだよ」とたたえられた。引き揚げ際に安藤は照れ笑いした。「泣いちゃったな。長かったよ…」。神宮の夜空に美しい桜が咲いた。【酒井俊作】