<楽天1-3オリックス>◇11日◇Kスタ宮城

 ひと味違った投球だった。オリックス井川慶投手(32)が、楽天戦で、阪神時代の06年以来、6年ぶりの国内勝利を挙げた。日本復帰4戦目で最長となる8回を投げ、3安打1失点(自責0)。150キロの剛速球で押すかつてのスタイルではなく、ノーワインドアップとワインドアップを使い分ける頭脳的な投球を披露。メジャー時代の不遇、そして国内復帰後のケガなどを乗り越え、やっとの思いで1勝をつかみ取った。

 静かにハイタッチした。岡田彰布監督(54)に「おめでとう」と言われ、井川はほおを緩めた。4度目の先発で2095日ぶりの日本勝利。苦しんだヤンキースでの5年間を思い出した。「なかなか向こう(米国)で結果が出なかった。何とか日本でと思っていた。ふがいない投球が続いた。うれしい。正直ほっとしている」と表情を緩ませた。

 先発の本能だった。1回から6回まで制球重視でセットポジション、味方が逆転した7回はノーワインドアップで最速143キロの直球を連発した。「腕が振れるので勝負しようと思った」と、勝負どころを見極めて8回3安打1失点。岡田監督は「点が取れない中で投げ合いは(阪神で)ずっとやっていた」とうなずいた。三塁側ベンチには03年に阪神でともに優勝した星野監督がいる。「星野監督には頑張っている姿を見せられた。岡田監督にはチャンスをいただいた恩返しができた」とかみしめた。

 「優勝を狙えるチームだ」との口説き文句で、正月、岡田監督に入団を誘われた。一方で「自分にもチャンスがあったら」という米国への気持ちもあった。投げたい気持ちと夢のはざまで心が揺れた。

 目に焼き付いた光景がある。3・11、東日本大震災。キャンプ地タンパで、真夜中に妻からの電話が鳴った。「電話はつながらなくなると思うけど、大丈夫だから」。津波が猛威を振るうニュースを見て緊急帰国。成田から一般道で茨城・大洗へ。「道がぐちゃぐちゃで塀も倒れて」。姿を変えた町並みに圧倒された。

 「大洗の人も僕が投げる姿をもうほとんど見ていない。少しでもその姿を見てもらえたらうれしい」との言葉通り、震災から1年4カ月のこの日に復活投球を見せた。

 まだ満足はしていない。7回を終えて指揮官から「1人でいけ」と完投指令が出た。だが、8回に2死三塁のピンチをつくったこともあり、8回を投げ終えたところでお役御免となった。「本当は1人でいかないといけない。次が大事です。まだまだこれからです」。6年ぶりの日本通算87勝目は通過点にすぎない。03年の20勝左腕が輝きを取り戻す道のりは始まったばかりだ。【益田一弘】