<コナミ日本シリーズ2012:巨人4-3日本ハム>◇第6戦◇3日◇東京ドーム
原巨人が3年ぶりに日本シリーズを制した。栗山ハムを4勝2敗で下し、22度目の日本一。決めたのは、やっぱりこの男だった。同点の7回2死二塁、キャプテン阿部慎之助捕手(33)が中前に勝ち越し適時打を放った。右膝裏に違和感を訴えて第4、5戦を欠場したが、ここぞの場面で見事な殊勲打。チームは8日開幕のアジアシリーズ(韓国・釜山)に出場する。
足が震えた。やっぱり主役は慎之助だった。出来過ぎたストーリーの主人公が最後まで役を全うした。同点で迎えた7回、2死二塁。日本ハム4番手石井を余裕たっぷりでにらみつける。3ボール1ストライクからの5球目。外角に逃げるスライダーをつかまえた。打球は中前で弾む。日本一を決める主将の決勝打に東京ドームが震えた。
打球の行方を祈るような思いで追った。一塁に到達すると至福の時間が待っていた。両手を高く上げ2度、3度たたいた。「札幌でチームに迷惑をかけた。何とかという思いを出せた」と、ベンチに向かってこん身のガッツポーズを突き上げた。「東京ドームで全員が注目していると思うと、いまだに足が震えることがある」。テーピングで補強した右足も最高潮の興奮に震えた。
第3戦で右膝裏に違和感を覚え途中交代。極秘で病院に向かった。精密検査の結果は右ふくらはぎの筋膜炎。シリーズ中の復帰は絶望的な状況だった。第4戦はベンチを外れ「様子を見ながら」とだけ話した。第5戦は「感じだけ出していくよ」と、先発した内海のキャッチボール相手を買って出た。東京への移動日だった2日、「やるよ。やるしかないだろ。あと2試合だからさ」と、決めた。
負傷から、この日までに奇跡の回復なんかは起こっていない。痛みを乗り越えたわけでもない。「宇宙から持ってきた(治療)機械を使った。宇宙船に乗って秘密の場所に行って、ティー打撃をしたら、いい感触だった」。ジョークではぐらかすが、痛みを自分の中に封じ込んでグラウンドに立った。「打てるボールしか振らない。そんなに余力はないから」。右足を踏み込むと激痛が走る。限られたスイング数しか耐えられない。1年間、踏ん張り続けた自身の体に最後のムチを入れて臨んだ。
誰もが待望したスタメン出場で、あっさりと大仕事をやってのけた。原監督も「本来ならば出場もどうかというところですが、本人の強い希望とチームの大黒柱として、最後に決めてくれました。大変価値ある、価値ある一打でした」と、最上級の賛辞を贈った。本人は「いいシナリオでしたね。もし、この試合で別の場所をケガしたらそれが運命。もっと悪くなってもいい。ビビッたら何もできないから」と、どこまでも頼もしかった。
9回2死一、二塁、あと1人。糸井を遊ゴロに打ち取り歓喜の瞬間がきた。もはや痛みは忘れていた。マウンドの山口のもとに全速力で飛び込んだ。「明日は熱でも出て寝込むんじゃないの。出て良かった」と、仲間ともみくちゃになりながら抱き合った。「4番、キャッチャー、阿部」。これほど心強いものはない。慎之助が3年ぶりに最高の景色を奪回した。【為田聡史】



