<巨人5-4広島>◇3日◇東京ドーム

 ゴジラの領域に近づいていく。巨人阿部慎之助捕手(34)が6回、3試合連続となる9号ソロを放った。この打席、1度もスイングせずボールを見極め、フルカウントからの内角球を仕留めた。超積極的な打者がなかなかバットを振らず、打者有利のカウントから1球でケリをつけるスタイルが際立つ。明日5日に再会する、松井秀喜氏の絶好調時と姿が重なる。

 一振りで仕留める。阿部にもゴジラ特有の雰囲気がほのかに漂った。6回無死。内外角に散らされた広島バッテリーの攻めにバットは動かない。フルカウントからの6球目。確実に狩れる球が来た。外角要求の逆球で内角に来たシュートについに反応した。打った瞬間、誰もが分かる打球。選ばれし打者だけが放てる軌跡が右翼席に描かれた。

 「打ち損じることなく、しっかり捉えられた」。言葉通りの一振り。2戦連発中の4番は警戒され、1、2打席目は先頭打者ながら四球だった。外角中心の配球でも手を出したくなるのが好調な打者心理。だが職人のように選定した。待って、選んで、振り抜く。3戦連発は、この日16球目で2度目のスイング。ここ5試合でも74球中、13スイングと厳選している。「何とか我慢して、打てる球を積極的に打つ」。その言葉に極意がある。

 獲物をワナに陥れている。4月中旬からバッターボックスの中での立ち位置を変えた。ベースから半歩、下がって構えるようにした。多投される外角の球に対し、振らない一線を引いた。同時に内角のゾーンを空けて、相手バッテリーに勝負させる気持ちを駆り立てさせる。その誘惑のトラップに誘い込まれた球だけを確実に仕留めている。

 だから四球も勲章だ。前日2日の名古屋からの移動。新幹線の車内で新聞を広げて、記録欄を見つめて言った。「鳥谷との勝負だな」。22個でリーグでトップの鳥谷と四球数を争うことをモチベーションにして、待ちの姿勢を強めている。

 希代のホームランバッターだったOBの松井秀喜氏も一撃必殺の職人だった。ファーストストライクを狙うことは少なく、じっくりと相手を攻略するタイプだった。2年間だけ共にプレーした阿部は「スタンドに入るというより、壁を突き破るような本塁打だった。こんな打球を打てる人がいるんだと思った」と当時を振り返る。阿部も遠かった松井の領域に足を踏み入れてきた。【広重竜太郎】