<阪神3-1ロッテ>◇8日◇甲子園

 鼻にできた切り傷は名誉の負傷だ。阪神西岡剛内野手(28)がいきなり勝負への執着心をみせた。1回。成瀬の初球だ。一塁側へ絶妙なプッシュバント。全力で走り出すと、勢いそのままに、猛烈なヘッドスライディングだ。

 「監督が交流戦の1位を目指していこうと、そう言ってるんで、全試合勝っていかないと困るし」

 頼れるリードオフマンが、指揮官の思いをプレーで表現した。地面で顔を激しく打ったのか、左手でベースに触れた後、そのまま一塁ベース付近でうずくまった。なかなか立ち上がることができず、一時はベンチ裏に下がって、治療が施された。不穏な空気が流れたが、西岡がグラウンドに戻ってくると、甲子園の満員の虎党から拍手が送られた。

 ハートは熱くても、冷静さは忘れない。「右に立つときは常にプッシュを考えている」。後続が続かず、得点には結びつかなかったが、成瀬に重圧をかけ、チームのロッテ戦6連勝となる白星へ勢いをつけた。

 全力プレーはこれだけではなかった。5回1死からの第3打席。二飛を打ち上げたが、アウトの瞬間、西岡は二塁まで到達していた。この時点でリードは1点。勝利に近づくためには、追加点が欲しい場面。1つでも先の塁へ。どこまでも貪欲な男が、今年の虎にはいる。【宮崎えり子】