<ヤクルト2-3阪神>◇4日◇神宮

 ついに60本の大台に乗せた。シーズン本塁打日本記録を更新中のヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(29)が、阪神24回戦(神宮)の6回2死三塁から右翼席へ同点の60号2ランを放った。ベンチ前では引退する宮本慎也内野手(42)と抱き合って喜んだ。「きょうは60号を打つ」と、宮本の引退試合に花を添えることを約束していた“予告ホームラン”だった。

 バレンティンは右腕を突き上げながら一塁へ走った。0-2で迎えた6回2死三塁。外角直球にバットを合わせると、ライナー性の当たりはフェンスをぎりぎりで越えた。風は試合前と違い、左から右へ吹いていた。しかも外角を攻められたため、右打ちを意識して放った同点の60号2ランだった。

 ベンチ前に戻ると宮本と抱き合った。「60号は今日まで取っておきました」と言って笑った。「シンヤの引退の日。今日打てたらいいなと思っていたけど、ホントに打ててよかった」と喜んだ。来日から3年、野球に対する姿勢では宮本から厳しく指導を受けてきた。全力で走らなかったとき、守備で緩慢なプレーをしたとき、ベンチで容赦なく注意された。野球は打つだけではないと。「野球人として大事なことを教えてもらっている」と話していた。

 試合前から期すものはあった。グラウンド入りすると、センターの旗を見て右から左に吹く風向きを確認していた。「トゥデイ、チャンス。サヨナラね。ミヤモト、プレゼンツ」と言った。引退試合の宮本に60号を贈る、ということだ。32年ワールドシリーズで予告本塁打を放ったベーブ・ルースばりの1発で、伝説のスラッガーが27年に記録した60号に並んだ。「米国ではNO・1のパワーヒッターと肩を並べて光栄。ココ・ルースと呼んで」とご機嫌だ。

 7月に痛めた左アキレスけんの状態はよくない。東京ドームでの巨人戦は1日が途中交代で、2日は7月28日以来となる欠場だった。3日は代打で三振。しかし実質2日休んだのが良かった。クラブハウスからは小走りでグラウンド入りした。打撃練習でも最初から豪快に引っ張ったのは久しぶり。調子が悪いときは、ハーフスイングで中堅から右方向へ打つだけのときもあった。「56号の時もそうだったけど、ケガと同時進行で大変だった」と正直に言った。

 このシーズンのここまでを振り返り「集大成」という言葉を使った。「誰にでもピークはある。僕には今年がそうだったのかもしれない。2、3年前には野球をやめたいと思ったこともあるが、今はネバー・ギブ・アップ」と。3冠王は厳しいが、「今年すべて取ったら来年目指すものがなくなる。取れなくてもいいシーズンだったことは間違いない」と充実した表情で言った。まだまだ先はある。【矢後洋一】

 ▼バレンティンが日本プロ野球初のシーズン60本塁打に到達。大リーグで60本以上は5人(8度)が記録しており、27年に史上初めて達成したルース(ヤンキース)の60本に並んだ。チーム142試合目の60号は大リーグと比べても遜色なく、01年ボンズ(ジャイアンツ)の141試合に次ぎ、98年マグワイア(カージナルス)の142試合に並ぶ2位に相当。本塁打率(7・30打数に1本)も01年ボンズ(6・52)98年マグワイア(7・27)に次ぐハイペースだ。