<阪神2-4巨人>◇9日◇甲子園

 電話はつながらなくても、巨人久保裕也投手(33)がバトンをつないだ。2番手の西村が打ち込まれ、2点差に迫られた7回1死一、二塁。三塁側ベンチとブルペンを結ぶ内線電話が故障する中、橋上コーチが全力疾走でブルペンに駆けつけ、久保に伝達。チームは9連戦中だが、7試合中5試合目の登板を連続三振で退けた。股関節、右肘痛から復活を遂げた右腕が、ドタバタ劇を救った。

 鳴るはずの電話が、鳴らなかった。7回、2点差に迫られ、なおも1死一、二塁のピンチだった。久保はブルペンでその時を待ったが、受話器からは何も聞こえなかった。「もし、もし~、と繰り返すばかりで…。山口と準備していたんですけど、どっちがいくのかと…」。その瞬間、モニターには原監督がベンチを出る姿が映った。

 阪神ファンの大合唱が耳に入ったが、気持ちを落ち着け、肩を作った。「びっくりした。試合の中でいける人は限られるから、全力でいったよ」と息を切らしながら、橋上コーチがブルペンに走った。三塁側ベンチ裏の通路で、左翼スタンド下のブルペンまで100メートル弱はあるとみられる。「久保、という声が聞こえたので。準備はいつでもできるんで大丈夫」。たったひと声でスイッチを切り替え、リリーフカーに飛び乗った。

 嫌な雰囲気、流れも全て断ち切った。大和、鳥谷をフォークで連続三振。巧みなバットコントロールを上回る、ベース板にたたきつけた伝家の宝刀だった。「1本ヒットが出れば、(球場が)盛り上がる。だから、低く、低く」。前日8日のDeNA戦は制球ミスで同点打を許したが、一夜で汚名返上をやってのけた。

 どうしても、助けたかった。股関節痛、右肘痛で約2年、1軍から遠ざかった。その間、西村、山口、マシソンの通称「スコット鉄太朗」がフル回転。悔しさ以上に胸にあったのは、3人への申し訳なさだった。シーズン開幕前、久保はこう言った。

 久保

 自分は何もできなくて、迷惑をかけた。だから、あの3人を少しでも助けられれば。欲張りなことは言いませんから。

 ここ7試合中5試合目の登板こそが、仲間を救った証しだった。原監督は「返すがえす、これ以上の賛辞はありません」とたたえた。「必要とされなければ、その時は自分もわかっています」。勝負の世界に生きる久保はこんな覚悟を持ち、今日もマウンドに備える。【久保賢吾】

 ▼久保が7回のピンチを抑えて今季2ホールド目。今季の久保は10回1/3を投げて与四死球が4月25日広島戦の1個だけ。巨人の主な救援投手の与四死球率(9イニング換算の与四死球数)と防御率を出すと、

 久保

 0・87

 3・48

 西村

 4・70

 4・11

 山口

 2・61

 6・97

 マシソン

 4・76

 5・82

 西村やマシソンが与四死球率4・00以上と制球難で苦しむ中、久保は抜群のコントロールを見せている。