<中日8-4阪神>◇14日◇ナゴヤドーム

 最高のスタートを切ったのに…。阪神上本博紀内野手(28)が1回先頭で5球目をたたき、左翼席にプロ初の先頭打者アーチを運んだ。1回に4安打を集中して2点を先制。だが2回以降は凡打の山。7回に無死満塁の反撃チャンスをつくったが、梅野の左犠飛による1点のみ。上本は2死一、二塁での空振り三振に唇をかんだ。

 ベンチ裏からバスに乗り込む道中、上本が顔を上げることは1度もなかった。自らがもたらせた勢いも、最後は中日に持って行かれた。1回、いきなりぶち込んだ先頭打者本塁打。プロ初のうれしさも、3時間半後には吹き飛んでいた。

 中日朝倉は立ち上がり、制球に苦しんでいた。カウント3-1。高めに浮いた5球目の137キロ直球をジャストミートした。

 「有利なカウントだったので、思い切っていこうと思っていました」

 小柄な173センチの体から放たれた打球が、左翼スタンド最前列の灰色ラバー部分に弾んだ。チームでも今季初の先頭打者本塁打。最高の形で先制パンチを食らわせた。ところが、だ。

 「たまたまです」

 これが、試合後に発した本塁打についての唯一の言葉だった。2点差に迫った7回2死一、二塁では又吉に空振り三振を喫していた。重要な場面では結果を残せず。勝利につながらない悔しさを、かみしめていた。

 5月20日。上本は右手親指の骨折から約2週間で1軍に戻ってきた。「(患部は)大丈夫です」。2軍での実戦復帰後、何度もそう口にしてきた。1軍復帰当初の試合前練習。左打ちでティー打撃を始める上本の手は上下が反対だった。スイングを引っ張る下方の手は、左手だった。「(骨折した)右手のためです」と感触を確かめながら、スイングを繰り返した。痛みの有無こそ胸の内に秘めるが、チームの力になるため黙々と準備をする姿があった。

 一時は2番を打つこともあったが、8連勝がスタートした7月1日ヤクルト戦からは11試合連続で1番に座る。今のチームに「切り込み隊長」は上本しかいない。今日も勝利だけを目指し、チームのために躍動する。【松本航】

 ▼上本の初回先頭打者本塁打は自身初。今季チーム初で、西岡が13年5月18日ソフトバンク戦(甲子園)で打って以来、通算162本目。ナゴヤドームでの中日戦では、03年7月26日の今岡以来2本目。なお初回先頭打者アーチが出た試合で阪神が負けたのは、鳥谷が放った10年6月20日横浜戦(横浜)以来4年ぶり、7試合ぶり。