<ソフトバンク5-4ロッテ>◇23日◇ヤフオクドーム

 ソフトバンク柳瀬明宏投手(31)が流れを変えた。1点ビハインドの6回に登板して無失点でしのぐと、直後に打線が逆転。7回も志願の続投から3人で退けた。今季初勝利をつかんだ。起用場面が不規則でもチームのニーズに応じる“便利屋”らしい仕事っぷり。ペナント奪回にはこんな男たちの働きが欠かせない。

 陰の仕事人にめったにお立ち台は巡ってこない。2年ぶりの景色が柳瀬の目に入った。「うれしいですね。ブルペン陣で支え合いながらチームの力になれるよう頑張りたい」。今季初勝利のうれしさを味わうのは一瞬だけ。控えめでいい。

 出番は1点ビハインドの6回。「今の立場ではビハインドの登板が多いでのチームに流れが来るような投球を考えています」。先制2ランのハフマン、今江を空振り三振。クルーズに打たれたが、川本はニゴロ。無失点でしのいだ「流れ」は再び打線に伝わり、直後に逆転した。

 7回1死。左打者2人を迎えた場面で郭泰源投手コーチがマウンドに来た。「行けるか?

 と言われたら行くしかないでしょう」。岡田、鈴木を打ち取り、2イニングを無失点。実は、岡島が試合前に故障を訴え、勝利の方程式の一角が崩れた。勝ち負けの両展開でお呼びがかかる便利屋が、7回の“当番”が不在になった緊急事態に見事なすくい投げだ。始球式にはアンパンマンが登板。生みの親は昨年亡くなったやなせたかし(本名・柳瀬嵩)さんだ。「つながりはないと思いますけど…」と縁はないが、先発帆足を挟んだ柳瀬つながりの“継投”で?

 白星へつながった。

 10年に2度目の右肘手術を受けて、12年に3年ぶりに1軍復活して3年になる。右前腕の腱(けん)を肘に移植。手首に残る手術痕は薄れ、肘に強度が出てきた。前半戦ラストの9連戦では3連投もあり、後半戦も2連投。今季29試合目で、このペースなら自己最多シーズン47試合に達する。

 柳瀬の武器であるフォークボールに今季は「握りを浅くした」別バージョンがある。「今までよりスピードが速くてシュート回転。右打者の内角を詰まらせてショートゴロ、サードゴロを打たすイメージもある」。スライダー気味に落ちる従来型との使い分けで、組み立てに幅を生んでいる。

 新垣がトレード移籍し、気がつけば柳瀬が投手の生え抜きでは最長の在籍9年目になる。ルーキー森ら年下に優先的に仕事が与えられても、「自分の仕事をするだけ」と淡々としたもの。姿勢を見習う後輩は多い。クローザーのように目立たないかもしれない。それでも仕事に対するプライドと責任感はブルペン屈指である。【押谷謙爾】