<ヤクルト2-3中日>◇2日◇神宮

 竜を連敗地獄からすくい上げたのは、仕事人の一振りだった。同点の9回2死二塁。代打小笠原道大内野手(40)が左腕久古をとらえ、右中間を破る決勝二塁打だ。走りだした時に体勢が崩れるほど、外角低めの難しい球に食らいついていた。「気持ち。あとはボールに聞いてくれ。それ以外ない。なかなか勝てなかったのでよかったです」。ガッツの気迫が12年ぶりの7連敗を阻止した。

 貯金2で迎えた8月は7勝20敗の急降下で5位に沈み、CS進出も絶望的な状況になった。だが小笠原は「選手はだれも諦めていない。みんな下を向かずにやっている」とナインの思いを代弁。代打稼業が続く自身も集中力を切らさず、日々戦況を読みながらミラールームにこもってきた。可能性がある限り、常に全力。その教えを学んだのが、この日引退発表した1学年上の日本ハム稲葉だった。

 「僕より年上ですがプレーだけでなく、攻守交代時の全力疾走など、できそうでできないことを最後までやっておられた。人間性も人柄も素晴らしい方でした」。稲葉が札幌に来た05年から2年間一緒にプレー。間近で接し、感銘を受けた。「一緒に勝ち取った06年の日本一が一番の思い出。その方が引退されるのは寂しい」。惜別の決勝打でもあった。

 「ここぞで力を出してくれました。勝つっていいっスね」。9日ぶり白星で谷繁兼任監督にも久々の笑顔がはじけた。とはいえ3位との9差は変わらない。だが小笠原は言った。「残り試合は先のことを考えず全力で戦う。まず明日です」。先輩が示した野球人生のように、愚直に次の1勝を求めていく。【松井清員】