<巨人6-7ヤクルト>◇21日◇東京ドーム

 ヤクルト山田哲人内野手(22)が、Vロードを突き進む巨人を足踏みさせた。延長11回、本塁打争いで3位タイとなる25号決勝ソロを放った。この日は2安打で今シーズン177安打。50年に藤村富美男が記録した日本人右打者のシーズン最多安打191まで残り14安打とした。残りは11試合。64年ぶりの記録更新も見えてきた。

 本来なら、回ってくる打席ではなかった。延長10回に逃げ切りに失敗し、山田に6打席目が巡ってきた。安打数を重ねる絶好のチャンス。だが、山田は困っていた。「回ってくるなと思っていました。打てる気がしなかった」。2点を追う9回無死二、三塁ではボール球に手を出して空振り三振。「今日は無理やなあと思っちゃいました」と、後ろ向きだった。

 打席に入ると負の思考は消えた。高めに抜けてきたフォークを逃さず、バットを合わせた。「当たれば何とかなるやろうと思って行った」と無欲のひと振りがバックスクリーン左への決勝弾を生んだ。「ボールの下にバットがすっと入った」と、試合前に取り組んできたティー打撃の成果を発揮し、ほおを緩めた。

 64年ぶりの記録更新が見えた。日本人右打者のシーズン最多安打記録191を樹立した偉大な先人とは、不思議な“縁”を感じている。藤村氏が亡くなったのは92年5月。その2カ月後に生を受けた。「うそ?

 偶然とはいえびっくりです。そんなすごい方の生まれ変わりだったら、うれしい」とちゃめっ気たっぷりに笑いつつ、すぐに表情を引き締めた。「ぜひ達成したいと思います」。

 手が届かないと思っていた数字に挑む重圧はある。1年間フルに出場する中で結果を出すことの厳しさを痛感している。凡打をすると手袋を軽くたたきつけるなど、悔しさが行動にも出てきた。「心の疲れがあるんですよ」との言葉も、あながち冗談ではない。だが自分が達成する運命にあるとプラスにとらえてきた。

 そして、あと14本。「意識します。1試合で最低1本。その数字を打てるように頑張りたい」と力を込めた。残り11試合。歴史を塗り替える瞬間まで、もうひと踏ん張りだ。【浜本卓也】

 ▼山田が決勝アーチを含む2安打を放ち、今季177安打とした。過去にシーズン190安打以上は19人いるが、右打者は4人だけ。日本人の右打者では191本打った50年藤村富(阪神)しかおらず、山田が残り11試合で日本人右打者のシーズン最多安打記録に挑戦する。また、得点が今季両リーグトップで100の大台に到達。山田は今年で22歳。100得点の最年少記録は94年イチロー(オリックス)の21歳シーズンだが、セ・リーグで22歳シーズンは10年坂本(巨人)に並ぶ最年少100得点となった。