<ソフトバンク2-3楽天>◇23日◇ヤフオクドーム

 未来へと続く1勝だ。楽天松井裕樹投手(18)がソフトバンク打線を8回6安打2失点(自責1)に抑え、4勝目を挙げた。2点リードで迎えた8回、1点差に追い上げられ、なお1死一、三塁を招いたが、李大浩、柳田と続く強打者コンビを封じた。完投は逃すも、自己最長の8回を投げ抜き、今季限りで辞任する星野仙一監督(67)の期待に応えた。3位日本ハムとは再び6・5ゲーム差となった。

 気合がほとばしった。2点リードで迎えた8回。松井裕は最大のピンチに直面しても、表情を崩さなかった。連打と犠飛で1点差。内川には右前打を許し、1死一、三塁。ここで、踏ん張った。李大浩を内角139キロ直球で詰まらせて二飛。柳田には、カウント2-2で外に140キロ。見逃せばボールかもしれない。嶋のミットに吸い込ませ、空を切らせた。8回130球を投げ抜くと、グラブを2度、ばんばんたたいた。

 「球威は落ちていました。最後は気持ちだけです」。未知の領域を抜け、素直に明かした。これまでの最長イニングは7回が3度。8回は初めてだ。9連戦の頭。「サブさん(福山)、クルーズを休ませられて良かった」と、中継ぎの先輩たちの出番を仰がなかったことを喜んだ。

 ルーキーの奮闘を見守る人がいた。1点差に詰められても、ピンチが広がっても、ベンチに腰掛けた星野監督は動かなかった。腕組みをし、口元も微動だにしない。3アウト目を見届け、やっと、こくりとうなずいた。交代機はあった。7回を終え102球。8回先頭から福山、1点差で代えてもよかった。しかし、そんな選択肢は毛頭なかった。「8回を乗り越えさせんと、あいつのためにならん。やられるにしろ、抑えるにしろ、自分でな」と熱っぽく話した。

 あえて、修羅場に落とし、はい上がらせる。ドラフト1位左腕に未来を託しているからだ。開幕1週間前だった。チームでただ1人、本気で松井裕の大役を考えていた。結局、大本命の則本がオープン戦で好投。58年ぶりの高卒ルーキー開幕投手が闇と消え、少し残念そうに言った。

 「そりゃあ、則本の方がベターだよ。でも、松井で開幕なら面白い。楽天ファンだけじゃない。高校野球ファンも注目してくれる。失敗したら俺が責任を取ればいいだけ。このままだと、絶対にプロ野球界は終わるぞ。俺の野球人生の終末が近づいている。まずい。何とかしないといけない」

 松井裕は球界全体を盛り上げる存在になれる。そう信じている。これまでは辛口が多かった。この日ばかりは「立派だった。今日のような投球なら完投もできる」と率直に褒めた。松井裕は「いつも怒られてばかり。たまには良いところを見せたかった」と人懐っこく笑った。ユニホームを脱ぐ闘将から、18歳のルーキーへ-。未来を託すバトンが渡された。【古川真弥】