<阪神1-0DeNA>◇29日◇甲子園

 背水のシーズンを前に、阪神岩田稔投手(30)はフェルトペンを手に取った。試合用の茶色グラブに向かう。慎重に、小さく。目を凝らしてやっと見える小さな文字をしたためた。岩田にとって、それはおまじないだった。引退覚悟で臨んだシーズン。やれることはすべてやった。10勝目はならなかったが、その職務を全うした。

 「特に大事な試合だと思っていた。ゼロを並べられたのはよかった」

 岩田の真骨頂が詰まっていた。内外角を丁寧についた。右打者の内角へのスライダーは効果抜群。課題の立ち上がりを3者凡退でしのぐと、2回に連打で背負った無死一、二塁のピンチも「ゴロだったので気にせず、切り替えられた」と、無失点でしのいだ。8回4安打無失点。三塁さえ踏ませない好投だった。

 これで今季の投球回数を148回2/3とし、規定投球回数に乗せた。防御率も2・54とし、リーグ2位にランクイン。球数は116球だったが、8回に代打を告げられた。白星には恵まれなかったが、岩田が呼び込んだ白星に違いなかった。

 「勝ちたかったですけどね。それは巡り合わせもあるので。チームが勝ってよかったです」

 6年ぶりの10勝目は逃したが、今季最終登板で文句なしの投球。CSを見据えても、頼もしい限りだった。

 「見ないと思い出せないおまじないです」。グラブに書かれた、小さな文字は「☆SB・高低・内外☆」だった。投球を支えるキーワードをおまじないらしく☆で結んだ。でももう、わざわざ見返さなくても、その投球は表現できる。【池本泰尚】

 ▼岩田が8イニング無失点の好投で今季の投球回を148イニング2/3とし、12年以来2年ぶりに規定投球回に到達。今季全先発22試合中16試合でクオリティー・スタート(QS=先発6イニング以上、自責点3以下)で、QS率72・7%はメッセンジャーの76・7%に次ぎチーム2位。