<広島2-4阪神>◇1日◇マツダスタジアム

 最後まで助っ人は働き者だった。1点リードの8回に貴重な追加点をもたらしたのは4番阪神マウロ・ゴメス内野手(30)。相手のミスから無死三塁の絶好機できっちり右犠飛を打ち上げた。来日1年目では出色の109打点で打点王のタイトルにも期待十分。僚友マートンは1回の先制打を含めマルチ安打、打率3割3分8厘で締め。こちらの首位打者もほぼ確実だ。

 4番の勝負強さは144試合、色あせることがなかった。勝負の行方を決めたのはゴメスだった。1点差に迫られた8回無死一塁。戸田の5球目が本塁手前でバウンドし、会沢も大きく後逸。一塁走者の鳥谷は一気に三塁を陥れた。千載一遇のビッグチャンス。打点ハンターは狙った獲物を逃さない。武者震いした。

 直後だった。外角低めの直球を逆らわずにとらえ、右翼にライナーを打ち上げる。鳥谷の生還を呼ぶ、渋い犠飛が光った。

 「チームのために1点を取れた。大きかった。いつも言っているように打てる球を狙っていって打点を挙げられて、結果的に良かったね」

 リードが1点と2点では、救援陣の重圧もまるで違う。ポイントゲッターらしい働きでググッと勝ちに近づいた。

 阪神の球団史に名を刻んだ1年目だった。リーグトップの109打点は球団の1年目助っ人で最多記録。打率2割8分3厘、26本塁打は4番として堂々たる成績だろう。純粋で真面目なスタンスで臨んだから、全力疾走でシーズンをまっとうできた。ナインの誰もが「ゴメスは本当にいいヤツだよ」と言う。開幕当初は同僚に遠慮気味だったが、すっかり溶け込んだ。この日の試合前練習。鳥谷が遊撃でゴロを捕ろうとすると影武者のように背後で同じ動きをして笑わせていた。

 イジられ役でもある。チームメートとじゃれあう光景が日常になった。ある日のことだ。ある選手が「アッ!」と声を出して、フェイクである方向を指さす。ゴメスがその方向を見た瞬間、後頭部をパチンとたたかれていた。「だまされてるやん!」。簡単にいたずらに引っ掛かる、ユーモラスな姿に、気むずかしさはまるでない。

 充実の公式戦が終わっても、闘争心は消えない。11日からは広島とのクライマックス・シリーズが待ち構える。「勝ったのは良かった。しっかり休んで、プレーオフに向けて、やっていきたい」。米国ではポストシーズンを勝ち抜いてこそ称賛される。遠くドミニカ共和国からやって来たナイスガイは、持てるパワーを白球にぶつける。【酒井俊作】