<ヤクルト7-6DeNA>◇6日◇神宮

 プロ入り4年目の若武者、ヤクルト山田哲人内野手(22)が、ド派手な満塁弾で球史に名を刻んだ。8回1死満塁でDeNA山口から29号満塁弾を放ち、この日4安打目をマーク。これで今季192安打とし、藤村富美男(阪神)が50年に記録した191安打を64年ぶりに上回る、日本選手の右打者の最多安打記録を更新した。山田は1試合を残し、今季の最多安打のタイトルもほぼ確実にした。

 完璧な一振りで、山田が新たな歴史の扉を開けた。8回1死満塁、カウント3-0。「空振りでもいいと思ってフルスイングでいった」と146キロを強振し、左中間へ逆転満塁弾だ。会心の1発で新記録達成とタイトル獲得をほぼ手中にし、「信じられない。毎日トスをしながら『最多安打は取りたい』と言っていたので良かった」と喜んだ。

 負けたくない。その一心でここまできた。小学2年の時、兵庫・宝塚リトルリーグの練習を初めて見学した。周囲には体の大きな子供ばかり。当然、勝てるわけがない。悔しくて「いやや!

 こんなとこけーへん」と泣いて帰ったという。李相鎬(り・そうこう)総監督は「いきなり帰ってね」と苦笑いしつつ、山田の精神的強さを実感した。「泣いたからもう来ないかと思ったら翌週に来た。負けん気が強い。それで練習もするから上手になった。今も面影がありますね」。

 プロ入りも“屈辱”から始まった。10年ドラフトは1位指名も、日本ハム斎藤佑、楽天塩見の「外れ外れ1位」。オリックスと競合し、引き当てたのが小川監督だった。「なんとか期待に応えたい」。1年目にクライマックスシリーズに進出した際には「僕を登録して下さい」と願い出た。小川監督は「山田は初めてくじで引き当てた選手だし、思い入れはある。(本塁打は)思わず万歳しちゃった。涙が出たよ」。本来のメンタルの強さに、あらゆる球に対応できる技術が加わり、日本人右打者で最強の安打製造機に成長した。

 1番打者でありながら本塁打数もリーグ日本人トップの29本に伸ばした。それでも満足していない。200安打について聞かれると「いつか取れるように頑張りたい」と引き締めた。「相手から嫌がられる選手になって、何かの記録を更新できたらと思います」。山田には無限の可能性が広がっている。【浜本卓也】

 ◆山田哲人(やまだ・てつと)1992年(平4)7月16日、兵庫県生まれ。履正社では1年夏からベンチ入りし2年春から正二塁手、同秋から正遊撃手。3年夏の甲子園に出場。高校通算31本塁打。高校では先輩のT-岡田(オリックス)にちなみ「T-山田」と呼ばれた。10年ドラフトで、外れの外れ1位で入団。規定打席到達は今季が初めて。180センチ、76キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸2200万円。

 ▼山田が逆転満塁本塁打を含む4安打。山田の満塁本塁打は昨年10月6日広島戦に次いで2本目だが、この日はカウント3-0からの1発。70年以降、カウント3-0から満塁本塁打は92年4月16日マルチネス(オリックス)06年8月26日ズレータ(ソフトバンク)に次いで3本目と珍しい。山田は今季192安打とし、日本人選手の右打者として50年藤村富(阪神)の191本を抜いて最多となった。二塁手の最多安打は10年田中賢(日本ハム)の193本で、最終戦では二塁手の最多安打記録を狙う。

 ◆大リーグでは松井秀

 カウント3-0からの満塁本塁打は大リーグで松井秀喜(エンゼルス)が10年6月26日ロッキーズ戦で、1回1死から放っている。