<セCSファイナルステージ:巨人2-5阪神>◇第2戦◇16日◇東京ドーム

 敵のアクシデントにつけ込んでこそ勝負師だ。阪神鳥谷敬内野手(33)は不測の事態にも、まるで動じない。5回、目の前で上本が頭部に死球を受けて先発沢村が危険球退場。突貫で仕上げてきた2番手久保を悠然と待ち構えた。2点リードの無死一、二塁。初球だ。外角の甘い直球を完璧にとらえると痛烈なゴロはマウンドで高くはずんで中前へ。加点適時打でリードを3点差に広げた。

 「バントもあるケースだし、いろいろ考えた。(サインが)『打て』だったので思い切って行こうと。投手が交代してすぐでしたがチャンスだったので、初球から思い切って行った」

 完全に相手をのみ込んでいた。久保にも心理的な重圧がかかる展開だった。緊急登板し、しかもピンチ。無難に攻めてきた配球を完璧に打ち砕いた。CSは4戦連続安打。しかも巨人戦は2試合マルチ安打が続き3番の役割を完璧に果たす。CS直前は宮崎でのフェニックスリーグでプレーする本隊から離れて甲子園に残留。それでも、きっちり大一番にピークを合わせるから恐れ入る。

 「時間ももらえたし、結果を出すためにやるだけですから。実戦感覚が遠のいたのはあるけど、悪い感じではないですから」

 自ら変わっていくことを恐れない。ルーティンを重視して大勝負に臨むのが普通だが鳥谷は違う。実に「遊び心」にあふれる。甲子園での直前練習のフリー打撃。試合用バットに蛍光のグリップテープを巻きつけて打っていた。シーズン中に1度もない光景だ。コーチ陣に「それ何や?」と問われると笑顔で言う。「滑らないからいいんですよ。色がね、試合で引っ掛かるんですかね」。バットを握る感覚を重視した工夫だったが、テニスのグリップテープで有名なHORIZON社製だった。プロ野球では浸透していないグッズを用いるあたり常識破りだ。

 インパクトが手のひらに心地よく響く。3回には先制直後の二、三塁で右前へ。フォークを連投する沢村との我慢比べで直球を待ち続けて仕留めた。「真っすぐが多い投手。どこかで来ると思った」。地に足をつけて戦う男はブレずに頼もしい。【酒井俊作】