<SMBC日本シリーズ2014:ソフトバンク5-2阪神>◇第4戦◇29日◇ヤフオクドーム

 最後は守護神が壮絶に打たれて敗れた。土壌際に追いつめられた。それでも試合後、阪神福留孝介外野手(37)は迷いのない表情で言い切った。

 「僕らは勝つしか道はないとはっきりしたわけだから、それに向かってやるだけ」

 崖っぷちに立たされても、前へ、前へ。それが自分の勝負哲学。この日の打席でもそんな姿勢を表現した。

 3回、1点差として、なお2死一、三塁。福留は初球だけに集中していた。相手はソフトバンク中田。6四球と荒れまくる“暴れ馬”だ。ストライクがくる確率は低かった。だが、福留は振ると決めた。そして、初球のフォークをとらえた。中前へ同点打。劣勢の展開を振り出しに戻した。

 「(中田のボールが)荒れているからこそ、逆に打ちにいこうと思った。初回は受け身になった部分があったから。積極的に打ちにいこうと思っていた」

 百戦錬磨の男も“勝負の落とし穴”にはまった。初回、中田が2死から突然、3連続四球。中日時代の同僚、暴れ癖は知っている。押し出し四球も計算できる場面。2球目に際どい球をストライクと判定された。3球目は迷ったようなハーフスイング。最後はボール球になる変化球を中途半端に空振り三振。1度もフルスイングできずに最大のチャンスを逃した。

 自身が最も嫌う“受け身”だった。ただ、福留はミスを取り返す術を知っていた。2度目にめぐってきたチャンス。自分から仕掛けていくことで予測不能の“暴れ馬”を制した。

 どんな大勝負でも平常心でいられるのが強みだ。そんな福留が野球人生で最も「テンパった」瞬間があるという。99年、プロ1年目の日本シリーズ(対ダイエー)で適時失策を犯した。チームも1勝4敗で完敗。受け身になったら終わり-。教訓として今も胸に刻まれている。

 だからこそ、今シリーズ初戦、甲子園で二塁手上本がトンネルした時、福留は右翼から小さくなっている背中に声をかけた。「やったことは仕方ないぞ。もう1回(エラー)するくらいでいけ!」。その声は歓声渦巻くグラウンドを切り裂いて上本に届いた。やられても、ミスをしても、前に出るしかない。崖っぷちに追いつめられても、福留は、あの日の教訓を胸に戦い続ける。【鈴木忠平】