野手の秘密兵器は上本だ。広島緒方孝市新監督(45)が2日、秋季日南キャンプで2年目上本崇司内野手(24)に両打ちへの転向を命じた。高評価する守備力を生かすため、課題の右打ち打撃を大胆に改造。守備固めから将来の二遊間候補と期待した。

 打撃練習の合間、緒方監督が上本を呼び止めた。真剣な会談は5分に及んだ。

 緒方監督

 どうだ?

 トライしてみてくれないか?

 上本

 やってみます!

 うなずいた背番号0が向かったのは、それまでの右打席ではなかった。何とプロでは初の左打席だった。

 緒方監督

 1軍でも1、2番を争う守備力がある。でも今の右のままだと打率も出塁率も高くないし中途半端。1軍で需要のある守備力を生かしたいし、相乗効果も考えてのことです。

 野手総合コーチ時代から温めていたプランを、監督になって実行に移した。阪神上本の弟で、明大から12年ドラフト3位で入団。2年間の打率は1割2分1厘で、華麗なグラブさばきとは裏腹に打撃が課題で1軍に定着できずにきた。

 開花させる方法はないものか。浮かんだのは、カープ成功の系譜だろう。古くは高橋慶彦や正田耕三らがスイッチ転向で打撃を向上させ、一時代を築いた。監督も現役時代、そんな先輩を目の当たりにしてきた。上本も素質を秘めた原石と見込むからこそ、自力で輝く方法をアシストした。

 緒方監督

 今の内野には年齢層の高いのが2人(梵、木村)いる。次世代の内野をつくっていく上でも面白い存在になってほしい。

 上本もヤル気だった。残り1時間の打撃練習はオール左打ち。両打ちは広陵2年時に1度挑戦し、明大でも遊びで打っていたというだけあって、いきなり高い確率でバットの芯で捉えた。見守った監督も「まだまだだけどね」と言いつつ、非凡なセンスに笑顔だ。

 上本

 最初はバットに当たるかなと思ったけど、感触は悪くなかったです。もう、やるしかないですね。

 緒方監督はキャンプインの1日、ブルペンに張り付いて、練習生のデヘススと中村祐の無名右腕コンビが「面白い」と秘密兵器に指名。この日は一転野手に密着し、こちらも実績の少ない上本に光を当てた。見えてきた緒方色は原石発掘型。その眼力が、自軍から大きな“戦力補強”を生みそうだ。【松井清員】

 ◆上本崇司(うえもと・たかし)1990年(平2)8月22日、広島県生まれ。阪神の上本博紀は兄。広陵3年夏の甲子園で、史上初の兄弟先頭打者本塁打を記録。明大を経て12年ドラフト3位で広島入り。今季は18試合に出場し7打数2安打、打率2割8分6厘。通算48試合、4安打、2打点、打率1割2分1厘。170センチ、71キロ。今季は右投げ右打ち。<広島過去の主なスイッチヒッター>

 ◆高橋慶彦

 猛練習で遊撃のポジションをつかみ、79年には33試合連続安打の日本記録を樹立。盗塁王3度、通算477盗塁。

 ◆山崎隆造

 打率3割4度、84年に26試合連続安打。内野から外野に転向しゴールデングラブ賞4度。

 ◆正田耕三

 身長170センチと小柄もガッツが売り。87、88年に達成した2年連続首位打者は現在もチーム唯一。