豪快な空振りに大器の魅力が詰まっていた。巨人宮崎春季キャンプ初日の1日、ドラフト1位岡本和真内野手(18=智弁学園)が初のフリー打撃に臨んだ。誰もが柵越えを期待する初球、打撃投手のボールをけれん味なく空振りした。マシン打撃のスイング初球も空を切ったが「自分のスイングをしたかった」と意に介さなかった。空振りは長嶋茂雄、松井秀喜と流れる強打者の系譜。原辰徳監督(56)にも豊かな資質がしっかり届いた。

 いつの間にか人垣ができた。岡本がケージに入ると、ひむか球場が静まり返った。原監督も見守る中、奈良の怪童がプロ初のフリー打撃に臨んだ。初球。打撃投手のボールに反応した。豪快に空を切った。カーブマシンに移ったファーストスイングも、空振り。マシン打撃での空振りは人生初だった。アーチを期待したスタンドから笑いが起きても関係なかった。待ち時間にはタイミングを計らず、左でスイングを繰り返し、丹念にバランスを整えていた。「狙って打ったり、見せることも必要かもしれないけど、自分のスイングができないといけない」。自分のスイングにこだわって振ったから、堂々と言えた。

 思考が松井秀喜と似ている。松井氏は巨人時代、通常のティー打撃で空振りすることがあった。笑う周囲に「自分の形で打つから、空振りすることもある」と涼しい顔で返した。「マシン打撃は、ボールを打ちにいってしまう。スイングは素振りで作る」と、スイングの型を何より重要視していた。その姿勢は師匠である長嶋茂雄から教わった。ミスターのプロ初戦も4連続三振。ここから伝説を作り上げていった。

 空振りを意に介さない。岡本とミスターには、もうひとつの共通点があった。手のひらにマメができない。「練習をしないだけです」と照れを隠し、開いた手はツルツルだった。智弁学園の小坂監督は「負けず嫌いで、人知れずバットを振り込んでいた。練習量は際立っていた」と明かした。内田2軍打撃コーチは「岡本は上半身に変な力が入っていない。その証拠なのかもしれない。そういえば、長嶋さんは岡本と同じようにマメがない、きれいな手だった」と説明した。

 柵越えはなかったが、42スイング中23本が安打性の打球。打球の速度も角度も尻上がりで、終盤には左翼フェンスを直撃した。見守った原監督から「最初を見ておきたかった。原石ですね。どこに行き着くか分からない夢がある。普通のバッターは、腹筋だけを使って打つ。でも彼は、しっかり背筋も使って打っている」の第一印象をもらった。「内からバットを出すことだけを考えていた」と岡本。スラッガーの系譜を漂わせ、豪快にスタートを切った。【細江純平】<巨人の主な空振りデビュー>

 ◆長嶋茂雄

 立大から入団1年目の58年4月5日国鉄戦で公式戦デビュー。金田に4打席すべて空振り三振だった。初打席の初球から空振り。全19球のうち空振り9球。バットに当たったのはファウル1球だけ。

 ◆王貞治

 長嶋と同じく国鉄金田に歯が立たず。早実から入団1年目の59年4月11日、国鉄戦でデビュー。空振り三振、四球、空振り三振で全11球のうち2度のスイングも当たらず。

 ◆元木大介

 上宮時代から1年浪人してドラフト1位入団。91年2月19日にプロ初のシート打撃で石毛の前にあえなく空振り三振。

 ◆松井秀喜

 星稜から入団して初キャンプの93年2月13日、初のシート打撃で木田に空振り三振。無死満塁の想定場面でスコアラー推測による球速145キロを「やっぱり速かったです」。