貫禄の本格発進だ。阪神鳥谷敬内野手(33)がキャンプ第2クール最終日の9日、沖縄・宜野座球場でシート打撃に初登場し、若手投手から2打数2安打を記録した。現役投手相手の打席は今年初めてながら、マスコットバットで軽々ミート。若虎に格の違いを見せつけた。

 鳥谷が遊撃ポジションから三塁ベンチに走る。グラブを置き、素早くティー打撃を開始。「ほらっ、鳥谷選手が打つよ!」。ネット裏の父親が子供に声をかける。真打ちの登場に視線が集まる中、キャプテンはたった1球で2300人の観客を満足させた。

 試合用バットではない。重みのあるマスコットバットのまま、今年初となる現役投手相手の打席に入った。無死走者なしで右腕秋山の初球。外角134キロ直球をとらえ、中堅左に糸を引くようなライナーを決めた。いとも簡単に“今季初安打”を放つと、球場全体が拍手に包まれた。2打席目は左腕山本の外角131キロ直球をミートし、強いゴロで三遊間を破る。若虎との格の違いは明らかだった。

 「たまたまですよ。まあ、まだボールを見ていない割にはしっかり対応できたかな。しっかり練習もできているし、いい状態でここまで来ている。でも、これからですから…」

 練習後は終始照れ笑いだ。例年、2月はストライクゾーンの見極め「目」の訓練を重視する。「ボール球だと感じた1球が思った通り判定されるか」。この時期、打った打たないという結果には興味がない。実績十分のキャプテンからすれば、キャンプ中に注目されること自体が照れくさい。ただ、初の実戦形式でいきなり初球をたたけるのは調整が順調な証拠だ。

 シート打撃後のフリー打撃ではフォロースルーの際に左足を地面から離し、右足に体重を乗せる練習も行った。独自の調整法に狂いはない。個別メニューの特守では二塁上本と2人、和田監督の視線を浴びながら47分間ノックを受けた。右に左に振られても食らいついた。指揮官は「もう出来上がっているんじゃないか。守備を見ていても完全に下半身ができている」と目を丸くした。最後は「もうバテバテ」と笑顔でウソぶいた33歳。衰えとは無縁のまま、熟練の技に磨きをかけている。【佐井陽介】