武器はブラピ理論!

 阪神岩田稔投手(28)が14日、兵庫・西宮市内の球団事務所で契約更改交渉に臨み、2500万円増の推定年俸5500万円を保留した。今オフではチーム初、自身初の保留になる。アスレチックスのビリー・ビーンGMが活用し、ブラッド・ピット主演の映画「マネーボール」で取り上げられている「セイバーメトリクス」のデータも持参。貢献度の高さを訴えた。

 66分間の長い交渉が終わった。「サインはしていません」。岩田の表情はサッパリしていた。

 岩田

 今日は話をしっかり聞きに来ただけなので。

 今オフ、チーム初の保留は自身初の保留でもある。提示額は推定で2500万円増の年俸5500万円。もちろん高評価は認識している。金額面だけが不満な訳ではない。あえての一大決心は自覚の表れだ。

 左肘手術から復帰した今季は9勝13敗ながら、防御率2・29はチームトップ&リーグ5位。チーム2位の169イニングを投げ、打線の援護に恵まれない中、抜群の安定感を誇った。来季は投手陣を引っ張る立場。簡単に判を押さないのはチーム全体、若手の今後を考えてのことでもある。

 岩田

 いろんな資料も持ってきました。チーム内成績とか、他球団選手とか。

 珍しい武器も初めて持参した。10月下旬のスポーツ新聞1枚。メジャーで選手評価の指標となるセイバーメトリクスが載っているモノだ。01年オフからアスレチックスGMのビリー・ビーンが同データを用い、低迷していたチームを快進撃に導いた。この逸話はブラッド・ピット主演の映画『マネーボール』で上映されており、同データは藪1軍新投手コーチも重視する。

 今季の岩田の場合、6回3失点以内の確率を示すQS率はリーグ3位の84・0%。1イニングに出した走者を示すWHIPは0・982で同4位。どちらもチームトップの数値になる。球団はセイバーメトリクスを査定に取り入れていないが、メジャー流の資料も交渉材料の1つに違いない。

 岩田

 (希望額との差は)あると言えばあるけど、大したことじゃない。

 左肩痛で出遅れた09年は7勝、防御率2・68で200万円減。昨季は左肘手術でリハビリに専念し、800万円減。1年フル稼働した今季は大幅アップは確実だ。来週中の次回交渉では「納得がいけば」判を押すが、長期戦も辞さない。金銭以上に「納得」の2文字を追求する。【佐井陽介】

 ◆マネーボール

 アスレチックスのショット共同オーナー(当時)らが総年俸の削減を指示していた97年10月、ビリー・ビーン新GMは、少ない予算で好選手を獲得する方法を模索。セイバーメトリクスを重視して埋もれた才能を発掘し、00年以降5回プレーオフに進出した。これがマイケル・ルイスの著書「マネー・ボール」で紹介され、ブラッド・ピット主演で映画化された。