侍ジャパンの4番、筒香嘉智外野手(25)が、2試合連発となる2ランで勝負を決めた。WBCオーストラリア戦で1点リードの8回2死一塁、右翼ポール際へ豪快な1発を放ちダメ押し点を奪った。筒香はキューバとの第1戦でも先制適時打と2ランを放っている。不動の4番打者が、世界一へ打線を引っ張る。

 筒香がまた打った。1点リードの8回2死一塁。オーストラリア4番手ケネディの内角ボールゾーンに沈むチェンジアップに反応した。右翼ポール際に打ち上げた放物線は揺れるスタンドに吸い込まれた。打った瞬間は「いったかなって感じです」。着弾を確認すると「いったんだ」。本塁に生還したときには「うれしかったです」。素っ気なく、淡々と振り返るに終始した。

 ベンチ前でナインに迎えられるときはわずかに笑った。だが、ベンチに腰を下ろすと2号2ランの余韻に浸ることなく平然を貫いた。1回の1打席目は1死二、三塁の先制機で迎えた。カウント3-0から、まさかの空振り三振に倒れた。「そこで打っていれば試合の流れも良かった。もっと良い準備を詰めていかないといけない」と自らを叱責(しっせき)した。

 1つの勝負が終われば、次の勝負がすぐに始まる。だから8秒の余韻すら許さない。昨季6月の交流戦、ロッテ戦で自身プロ初のサヨナラ弾を放った。ヒーローインタビューを終え、興奮状態のままロッカールームに引き揚げた筒香が時計の秒針に視線を移した。「何秒間、この喜び、興奮に浸るのかを計ったら8秒だった。次の試合のことを考えれば、その8秒は無駄な時間だと思った。その8秒でもっといい準備が出来るかもしれない」。真顔で力説した。

 この日もそうだった。中田と並んだお立ち台。「明後日(10日)中国戦があるので、そこに向けて準備をしたい。世界一しかない。そこに向け頑張ります」と先の戦いだけに意識を向けた。試合前のミーティングで「昨日の勝利の余韻にひたるほど、国際大会は甘くない」と警笛を鳴らした小久保監督は「昨日といい、今日といい、さすが日本の4番です」とベタ褒めした。

 開幕キューバ戦の興奮もなければ、オーストラリア戦の喜びもない。筒香はすでに中国戦だけに集中している。だから、また、きっと打つ。【為田聡史】

 ▼筒香が8回、キューバ戦に続いて本塁打。WBCで日本人選手の2試合連続本塁打は、06年1次リーグ中国戦、台湾戦の多村(横浜)09年1次ラウンド中国戦、韓国戦の村田(横浜)に次いで3人目。3人とも初戦から2戦連発となったが、4番打者の2戦連発は初めて。7回には中田も本塁打。強化試合などを含め、日本代表で筒香と中田のアベック本塁打は初めてになる。