WBC世界フェザー級3位粟生隆寛(24=帝拳)が同級王者オスカー・ラリオス(32=メキシコ)を3-0の判定で破り、王座を奪取した。序盤から優位に立ち、最終12回には右フックでダウンを奪うなどジャッジが最大12ポイント差をつける完勝。3歳からボクシングを始めたエリートが、2度目の世界挑戦でベルトを巻いた。粟生の戦績は17勝(8KO)1敗1分け。

 終了のゴングの瞬間、粟生はもう立っていられなかった。「勝ちを確信して力が抜けた」。ひざから崩れ落ち、キャンバスにポタリ、ポタリと涙がこぼれ落ちる。顔をくしゃくしゃにしながら、勝ち名乗りを聞いた。1度は引いた涙が、再びあふれ出る。「お父さん、お母さん、ありがとうございました…」。両親のことを口に出したとたん、言葉はおえつになった。

 口を真一文字に結び、決意の強さをリング上で表した。自ら「勝負どころ」と振り返った6回、相手のジャブにひるまず前へ出て、左右のフックを連発した。「相手が出てきたとき、ペースにのまれなかった。打ち合いで余計なことをするなと言われたが、僕は下がらなかった」。終盤は続けざまにボディーを狙い、王者の顔をゆがませた。

 「世界チャンピオンになってきます!」。セコンドに向かって、そう叫んで臨んだ最終回、引きずり倒すような右フックでダウンを奪った。KOこそならなかったが、ジャッジ3人が5点差以上で粟生を支持する判定勝ちで、1-2の判定で敗れた昨年10月の雪辱を果たした。

 ボクシングの経験がある父広幸さん(49)との二人三脚で、王座を手にした。初めてグローブを握ったのは3歳のとき。教材はボクシングのアニメ「がんばれ元気」。粟生が生まれる前から、父が録画保存していたものだ。小中学校のころは、同年代の練習相手を探し、父と関東各地へ車で移動。帰りの車内は、ビデオを見ながらの反省会だった。動きがいいときは小遣いをもらった。「オヤジがやらせてくれたから今がある。オヤジにベルトを巻かせてあげたい」。王者になることで、恩返しができた。

 これからは追われる立場となって新たな戦いが始まる。帝拳プロモーションの浜田代表は「今日の粟生は90点。まだこれから強くなる。プラスアルファを付けていかないと」と飛躍を期待した。粟生も「お客さんも倒すことを望んでいたと思った。詰めが足りなかったです」と反省を忘れない。エリート街道を歩み続けるため、これからも精進を続ける。【森本隆】