19歳の怪物が世界最短デビュー3戦目で世界王座奪取を狙う。高校生史上初のアマ7冠を獲得した井上尚弥(大橋)がプロデビュー戦となる東洋太平洋ミニマム級7位クリソン・オマヤオ戦(10月2日、東京・後楽園ホール)を前に27日、練習を公開した。アマ時代の練習仲間だったロンドン五輪金メダリスト村田諒太(26)が「化け物」とたとえた逸材。師匠の大橋秀行会長(47)は今後の試合内容次第で、デビュー3戦目となる来春にも世界挑戦させる考えを示した。

 19歳とは思えない。プロデビュー戦前では異例の公開練習。井上は、前WBA世界ミニマム級王者の八重樫東と3ラウンドのマスボクシング(軽いスパーリング)を行った。スピードある出入りから鋭いパンチを放つ。軽快なフットワークとステップで好調をアピールした。その練習を見守った大橋会長の口から「(デビュー)3戦目で世界挑戦させますよ」と驚くべき言葉が飛び出した。

 プロ2戦目の相手は世界ランカーが内定。来春にも予定するデビュー3戦目の世界王座奪取となれば、75年7月のセンサクと並び、世界最短記録。7月のプロ転向会見では井岡一翔の7戦目超えを目標に掲げたが、それをはるかにしのぐスピード記録。「パンチ力、スピード、スタミナ、身体能力、そして気持ちの強さとすべてがずばぬけている」と大橋会長。底の知れない実力が、想像を超えたビッグプランにつながった。

 井上は「もう少しキャリアを積まないと」と謙遜するが、スピード記録自体に興味はない。なぜなら「世界王者になることは前提」と世界王座獲得自体は通過点にすぎないからだ。「階級で敵がいなくなるまで勝ち続け、防衛を続けたい」と、無敵の世界王者を目標に据えている。

 4月のアジア選手権決勝で敗れ、ロンドン五輪の夢は散ったものの、金メダリストの村田は「あいつは化け物」とたとえた。7月にプロ転向。3ラウンド制のアマからデビュー戦は8回戦のため、唯一の不安はペース配分だった。課題克服のため、7月から100ラウンド以上のスパーリングを敢行。日本人王者、日本人世界ランカーを圧倒する場面もつくった。「スタミナは大丈夫」とプロ仕様の体に仕上げた。

 この日、所属の大橋ジム(横浜市)には報道陣30人以上、テレビカメラも5台集結した。19歳のデビュー戦の注目度は世界戦並みに高まってきた。重圧が高まるかと思いきや、本人は「注目された方が集中できる」と大物ぶりを示す。相手はデビュー戦では異例の東洋太平洋ランカー。「カウンターの左フックを決められれば。引きつけるボクシングをするのがプロ。お客さんは倒すシーンを見たいのだから、タイミングが合えば倒したい」と、最後はしっかりKO宣言で締めた。【田口潤】

 ◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。小学1年で元アマ選手の父真吾さん(41)の影響でボクシングを始める。以来、親子二人三脚で1日5時間以上の練習を行う。相模原青陵高1年時でインターハイ、国体、全国選抜と3冠達成。3年時に国際大会プレジデント杯、全日本選手権を制覇し、アマ7冠。五輪メダルも期待されたが、最終予選を兼ねた4月のアジア選手権決勝で敗北。アマ通算75勝(48KO・RSC)6敗。7月にプロ転向。プロテストでは日本ライトフライ級王者の黒田雅之(川崎新田)をコーナーに追い詰め、実力を示した。163センチの右ボクサーファイター。家族は両親と姉、弟。高校1年の弟拓真さんも高校2冠を達成。