<プロボクシング:WBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦>◇27日◇東京国際フォーラム

 WBC世界スーパーフェザー級王者の粟生隆寛(28=帝拳)が、4度目の防衛に失敗し、王座から陥落した。同級4位ガマリエル・ディアス(31=メキシコ)に開始からペースを握られると、3回にはバッティングで左目上をカットし、自身初の流血。その後も相手の右ストレートを被弾し、0-3の判定負けした。試合前から原因不明の不調で、世界戦中止の危機に見舞われたが、調子は戻らなかった。WBA王者内山高志(32)との統一戦は消滅。帝拳ジムの本田明彦会長(65)は「今の状態なら(現役続行は)無理」と激怒した。

 顔面が血だらけになったのはボクシング人生初だった。0-3の判定負け。左目付近を大きく腫らした粟生は「自分の力が足りなかった」とうなだれた。3年前のフェザー級に続く、2度目の王座陥落のショックは大きい。控室から出ると、泣き崩れながら病院に直行した。

 開始から手数の多いディアスに苦戦。3回には偶然のバッティングで左目上をカット。自身初の流血に「血が目に入り、見づらくなって焦った」と動揺は隠せない。その後は左ストレート狙いの単調な攻撃に終始。体の切れも反応も悪く、逆に相手の右ストレートを多数被弾し、傷口を広げた。相手の減点が2ポイントも、最大4ポイント差の判定負け。完敗だった。

 原因不明の不調に悩まされていた。今月上旬には帝拳ジムの本田会長から「世界戦をキャンセルしよう」と言われた。粟生は泣きながら「頑張る。やらせてください」と直訴。だが、調子が戻ることはなかった。今回は病院の医者、栄養士とチームを組んで万全を期してきただけに、体調に異常はない。心当たりがあるとすれば精神面だろう。

 この日こそ人生初のカットも、パンチをもらわずに戦うスタイルが身上。だが内山のような派手な一発を持つタイプとは違い、一部ファンからは「面白くない」「つまらない」とやゆされた。本人も悩んだ。スパーリングでは足を止めて打ち合ってインファイトを磨いたが、しっくりこない。世界戦前には初のKO宣言もしたが、逆にその言葉が重荷になった。

 WBA王者内山との世界団体王座統一戦は消滅。本田会長は「不調の原因が分からないなら、やめるしかない。“もう1回”といわれても『ふざけんじゃない』だ」と厳しかった。「一から出直したいが、いろいろ相談して…」と粟生。アマでは高校6冠、プロでは世界2階級制覇。順風満帆だったエリートボクサーが、ボクシング人生最大の危機に直面した。【田口潤】