涙の初優勝だった。右目からしずくが頬を伝った。目は赤く腫れていた。万感の思いで、この瞬間を迎えた。02年春場所の初土俵から苦節15年。大関稀勢の里(30=田子ノ浦)がようやく賜杯をつかんだ。

 平幕逸ノ城(23=湊)との一番。変化も頭に入れながら立ち合い、突っ張って左はずを押す。右をのぞかせ、左の差し手は深く入れた。もろ差し。こうなれば万全だった。寄り切りで、1敗を守った。

 そして、支度部屋で風呂から出て髪を結い直したところで、2敗の横綱白鵬(31=宮城野)の結びの一番が始まった。だが、テレビには目を向けない。しかし、歓声は耳に入った。付け人から「横綱が負けました」と聞かされると、熱いモノが込み上げてきた。

 「うれしいですね」。しみじみと話した。幾度となく、あと1歩で阻まれ続けた。ここまで長かったかと聞かれると「そうですね」とつぶやいた。「(支えてくれた人へ)本当に感謝しかない」と頭を下げた。

 14日目で優勝を決めた。ただ、千秋楽が残っている。相手は横綱白鵬。「明日もしっかり、集中してやります。最後、明日しっかり締めて、味わいたいですね」。余韻を断ち切り、立ち上がった。ぶれずに、愚直に歩み続けた相撲道。最後まで、気持ちを切らすことはなかった。