星組トップスター柚希礼音が、次作「ミュージカル The Lost Glory-美しき幻影-」で、久々の敵役に臨む。同公演は専科の轟悠が6年ぶりの本拠地主演。シェークスピアの「オセロー」をモチーフに、復讐(ふくしゅう)心と嫉妬心が渦巻く人間ドラマを描く。兵庫・宝塚大劇場は7月18日~8月18日、東京宝塚劇場は9月5日~10月5日。

 快活-柚希の放つ空気とは一変し、今作はシェークスピア4大悲劇のひとつ「オセロー」をモチーフに、男女の愛憎劇に臨む。柚希は、主演の轟演じる“成功者”に嫉妬し、報復する敵役。太陽のような笑顔の柚希とはかけ離れた人物だ。

 「なぜここまで復讐心、嫉妬心があるのか共感できないと(役柄を)作れない。そこに至った経緯を踏まえて。私はどちらも弱い方なので」

 もっとも、敵役は柚希を飛躍させたひとつでもある。08年、仏革命が舞台の「スカーレット・ピンパーネル」で、政治闘争で駆け引きに長じた青年ショーヴランを演じ、高評価を得た。

 「あのときは、復讐心が少なすぎると言われ、休みの日も陰から人を見るような生活をしなさいと(笑い)。みんなでワイワイご飯も食べちゃダメだって…。今回も嫉妬心や復讐心が自分の中でリアルになるように、そろそろ実行せねば」

 もともと、人の輪の中心にいるタイプ。日常生活に役柄の気持ちを取り入れ、報復の心は、いたずら好きの柚希らしい形で“勉強”した。

 「なんともばかげた話なんですけど、例の壮さんのクッキー事件、あるじゃないですか(笑い)」

 “クッキー事件”とは、ともにいたずら好きの柚希と雪組トップ壮一帆によるもの。柚希が、クッキーをほしがる壮の目前で完食。いたずら返しで壮から1かけらだけクッキーが入った缶を贈られた。後日談も。

 「あの後、壮さんの退団公演を見させていただいて。お礼に、お手紙の下にクッキーを1かけらだけ入れた缶を返したんです。でも今回は、敬意も伝えたくて(時間を置いた)終演後に、ちゃんと中身が入った缶を届ける、という技を」

 いたずら返しの最後に込めた誠意。驚かせることができると思っていたが、新品の缶に感謝のメッセージをつづっていたのを、壮に見られてしまっていた。

 「全部、ばれていました。『新しいのも、用意してたなぁ』って…。『やったぞ!』って気持ちだったのに、やっぱり、さらに上に(壮が)いらっしゃった」

 おちゃめな柚希が、敵役で見せるギャップに注目だ。今回組む轟は、劇団理事でもあり、大先輩。共演は、トップ就任前の07年「KEAN」以来になる。

 「私があまりにも『思いきって、ぶつかります』と言い過ぎたのか、轟さんから『なんか、救急車で運ばれそうやから、やめて~』って言われ…(笑い)」

 10時間睡眠を心がけている。よく眠り、オフの日のカフェランチなどの日常に、ささやかな幸せを感じ、英気を養っている。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「The Lost Glory-美しき幻影-」(作・演出=植田景子氏) シェークスピアの「オセロー」をモチーフに、第1次世界大戦後の好景気にわくニューヨークが舞台。専科から轟悠が特別出演し、主演。不屈の精神でアメリカンドリームを実現した主人公を演じる。柚希は報復に燃える敵役にふんし、ヒロイン夢咲ねねをまじえ、男女の愛憎劇を描く。振り付けに、グスタヴォ・ザジャック氏も。

 ☆柚希礼音(ゆずき・れおん)6月11日、大阪市生まれ。99年「ノバ・ボサ・ノバ」で初舞台。星組配属。03年「王家に捧ぐ歌」新人公演に初主演し、以来、5作連続で新公主演。09年4月、星組トップ就任。12年「オーシャンズ11」で、第37回菊田一夫演劇賞を受賞。昨年は台湾公演に主演。今年1月、劇団100周年幕開け「眠らない男-ナポレオン・愛と栄光の涯に-」でナポレオンを熱演。今年11月に89年の真矢みき以来、2人目の日本武道館リサイタルを予定。身長172センチ。愛称「ちえ」。