歌手安室奈美恵(40)が、来年9月16日に芸能界を引退すると発表した。先日25周年を迎え、節目の年に決意したという。25年前、安室伝説のスタート地点である「スーパーモンキーズ」のお披露目ステージを取材した。14歳の時から孤高の職人のようなプロのオーラがあった。

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 安室がセンターを務める女の子5人組「スーパーモンキーズ」がお披露目されたのは92年7月23日。都内ホテルの宴会場に低めのステージを作り、音楽業界のお歴々やマスコミを集めたパーティー形式で行われた。お祝いムードで騒がしい空間に呼び込まれた彼女たちが、デビュー曲「恋のキュート・ビート/ミスターUSA」を披露。カップリング曲の「ミスターUSA」の方がメインの扱いで、撮影用も含めて2回ほど歌ったと思う。

 幼いけれどみんなダンスも歌唱力も抜群。これまでのアイドル像と一線を画すキレキレのパファーマンスは文字通り“新時代の到来”という感じで、取材陣も圧倒された。「取材陣」と言っても今のように媒体が多い時代ではなく、撮影も各社記者カメがほとんど。目の前で、全力のステージを見せてくれた。

 歌唱後はフロアに降りてきて記者たちの前に立ち、意気込みを語った。先ほどあれだけのパフォーマンスを見せた安室は、仲間に隠れるようにもの静か。話し上手なメンバーのPRに相づちをうちながら、記者たちをじっと観察しているような印象があった。

 紙面を読み返すと、「歌うのが楽しい。みんなに私たちの元気を分けてあげたい」とだけコメントしている。発言こそ初々しいが、言葉よりステージで判断してほしいと言いたげなガッツと風格を感じた。彼女のコンサートはMCがなく、2時間ずっと歌って踊るスタイルであるのも納得なのだ。

 この時見たのは“オン”の状態の安室だったが、偶然“オフ”の彼女に遭遇する機会もあった。当時六本木にあった所属事務所に社長を訪ねた時のこと。壁で社長室と仕切っている応接フロアみたいな空間で、静かに本を読んでいた。スーパーモンキーズのほかの4人は何かの話でにぎやかに盛り上がっていたけれど、彼女は読書に夢中だった。

 急いでいたのできちんとあいさつできなかったが、通りすがりに「先日の『ミスターUSA』すてきでした」と伝えた。いきなり感想を述べて去る正体不明の女にぎょっとしただろうが、あせったような笑顔で「あ、ありがとうございます」と小さな声でお辞儀をしてくれた。やはり、この人のどこからあんなパワフルな声が出るのだろうと思った。

 その後、アムラー現象を巻き起こし、今まで音楽の第一線でプロのパフォーマンスを見せてきた。「私が長年心に思い、この25周年という節目の年に決意した」という胸の内は彼女にしか分からないが、14歳の彼女の面影を重ねると、決断もストンと胸に落ちる気がする。「有意義な1年にしたい」という残り1年に注目したい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)