NHKが16日、ゴーストライター問題を会見で謝罪し、現在の全聾(ろう)状態をウソだと告白した佐村河内(さむらごうち)守氏を取り上げた「NHKスペシャル」などの番組の検証結果について、発表した。同日放送された情報番組「とっておきサンデー」(日曜午前11時)内で報告した。

 同局生活・食料番組部の松本浩司氏が出演し、「心からおわびを申し上げます」とあらためて謝罪した。視聴者からの批判などを受け、再発防止に向けて、番組企画の提案からの過程を調査したという。制作チームやカメラマン、佐村河内氏本人にも聞き取りを行ったという。

 まず、佐村河内氏が自分で曲を作っていなかったことについて、制作チームが疑問に思わなかった理由について説明した。番組企画の提案段階では、「佐村河内氏はすでに音楽家から評価されていました」とし、「クラシック番組の担当者からも、専門家に取材をしました。佐村河内氏について、音楽界の中で評価は分かれているということでしたが、作曲をしていることについて、疑わせるような情報はありませんでした」と説明した。

 撮影中は、番組スタッフが、佐村河内氏に譜面を書くところを撮影させてほしいと何度も交渉したが、同氏から「神聖な作業である」として断り続けたという。同様の番組を制作する際、創作の現場を撮影できないことが少なくないことから、作曲シーンの撮影を断念することになったという。交渉のやりとりがあった翌日には、佐村河内氏の机の上に、音符が書かれている楽譜が置かれていたという。NHK側が今月8日に佐村河内氏に問いただしたところ、曲を作ったとされる前日に、18年間ゴーストライターをしていた新垣隆氏から譜面を送ってもらい、引きだしの中に入れておくことによって、一晩で書いてあるように見せかけたという。

 さらに、このような経緯があったにもかかわらず番組側が疑問を持たなかった理由については、佐村河内氏が書き上げた曲の構成イメージ図がポイントだったと説明。佐村河内氏は曲のイメージや全体構成をすらすらと書いたという。図の中には、アレグロ、超絶技巧など、具体的な言葉を使ったイメージがつづられていたため、当然本人が作曲しているものと判断したという。なお、完成した曲のイメージは、図に書かれていたものと同じだったという。

 また、佐村河内氏の聴力問題についても触れた。番組では、提案段階からたびたび疑問があがっていたという。だが、医療機関による診断書の存在や、撮影中の会話は全て手話通訳者を介して行われていたことから、全聾であると判断したという。途中、同氏が明瞭に話すことを不思議に思ったスタッフもいたが、手話通訳者から「途中から耳が聞こえなくなった人は、これくらい話せることもありますよ」と聞き、納得してしまったという。

 調査結果の報告を終えると、松本氏は「極めて厳しいご意見が寄せられ、深刻に受け止めています」と話した。さらに、「医師の診断書の確認は行いましたが、人道上の観点から、それ以上の確認はしませんでした。経歴に関しては、もっと取材範囲を広げていれば、虚偽を見抜けたかもしれません。社会的に、一定の評価が定着している人を番組で取り上げる時、経歴や評価について、どこまで確認をとるべきか、番組を制作するときの教訓として、重くとらえています」とした。今後は再発防止に向け「制作現場の全てのスタッフが、このようなことが起きうるということを認識し、チェックの精度を高める必要がある」とし、局内のさまざまな研修会や勉強会で今回の問題をとりあげていくという。