合成麻薬MDMAを飲んだとして、麻薬取締法違反(使用)の罪で起訴された俳優押尾学被告(31)が8月31日、保釈保証金400万円を東京地裁に納付し、拘置されていた警視庁三田署から保釈された。やつれた表情で「このたびはご迷惑をおかけしました」と頭を下げたが、取材陣からの「なぜ女性を放置したのか」などの質問には一切答えずじまい。死亡した女性(30)に関する空白の3時間など、まだ解明されていない謎が残るまま身柄拘束を解かれた。早ければ今月下旬から来月上旬にかけて裁判が始まる。

 8月3日の逮捕から28日。三田署の玄関に現れた押尾被告は黒いインナーの上にチェックのシャツ、ベージュのズボンで足元はサンダル履きだった。ほおはこけ、無精ひげもうっすら残っていた。「このたびはご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」。両手をひざに置いて、約5秒間、深々と頭を下げた。集まった約200人の取材陣からは「女性をなぜ放置したのか」「女性にひと言を」「ファンにどう説明するのか」などの質問が矢継ぎ早に飛んだが一切答えない。2回頭を下げて迎えにきた車に無表情のまま乗り込んだ。

 その後は報道陣のバイクや車など約20台とカーチェイスを繰り広げた。追う報道陣を振り切ろうと、高速道路に乗ったり、細い一般道を走ったりと“追いかけっこ”が続いた。終わったのは約4時間後。押尾被告は突然、車を降り、東京メトロ小竹向原駅に向かって猛ダッシュ。駅の階段を下り、改札に向かったとみられる。地下鉄に乗車したのか、別の出口から出て、別の車に乗り換えたのかは不明。都会の喧噪(けんそう)の中に消え去った。関係者によると、都内にある実父の自宅にも戻らなかったという。

 押尾被告と付き合いのある実業家が用意したという、保釈保証金400万円を納付し、保釈にこぎ着けるまでは異例の展開をたどった。東京地裁が認めた保釈に対し、東京地検が取り消しを求める準抗告と執行停止の申し立てを行った。結局、地裁は準抗告を棄却したが、検察が押尾被告の身柄拘置にこだわったのは、同室で亡くなった女性への捜査が大きく影響しているとみられる。

 捜査関係者などによると、押尾被告が女性の異変に気付いてから、119番通報をするまでに「空白の3時間」があった。同被告は女性に心臓マッサージをほどこし、その後にマネジャーと知人を電話で部屋に呼びつけて自分は部屋を出て行った。なぜ、女性の容体急変直後に119番通報しなかったのか。女性の遺族らは「すぐに救急車を呼んでいたら…」と疑問の声を上げている。

 また、救急車を迎え入れる際、マネジャーか知人のどちらかがマンションの植え込みに女性の携帯電話を捨てている。警視庁では、この人物が押尾被告と女性が一緒にいたことを隠すために取った“隠ぺい”とみて慎重に調べている。女性の部屋からコカインが押収されているが、これが押尾被告の所有したものだった疑いも浮上している。

 MDMAの入手ルートの解明も急がれる。押尾被告は「以前にも海外で使った」と供述しており、海外で入手して国内に持ち込んだ可能性がある。同被告は7月初旬から事件直前の28日まで米国に滞在、それまでも1~2カ月に1度のペースでロサンゼルスへ行っていた。写真週刊誌では、押尾被告と米国でMDMAを服用したという女性が「ドラッグセックス」の過去まで告白している。ドラッグは入手しやすい海外で入手したのだろうか。そして、常用していたのだろうか。

 死亡女性に関する空白の3時間とコカイン疑惑、薬物の入手ルートなど、警視庁と東京地検が関心を寄せる多くのナゾを残したまま押尾被告が保釈された。

 [2009年9月1日8時27分

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