映画やドラマで個性派俳優として活躍した蟹江敬三(かにえ・けいぞう)さん(本名同じ)が3月30日午前8時27分、胃がんのため亡くなったことが4日、分かった。69歳。2日に近親者による密葬を済ませ、後日、お別れの会を行う。喪主は妻綾子(あやこ)さん。体調を崩しながらも昨年12月、今日5日放送のドラマ収録に参加するなど、最後まで現役を貫いた。

 蟹江さんは昨年のNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で、能年玲奈演じた主人公天野アキの祖父、天野忠兵衛役で出演。同12月には長年レギュラー出演していたテレビ朝日系「土曜ワイド劇場

 おとり捜査官・北見志穂18」の収録にも参加していた。

 だが02年スタート時から務めていたテレビ東京系「ガイアの夜明け」ナレーションを今年1月、体調不良で降板した。関係者は「その時はがんと分かっていたようです。でも、2月18日放送分から3月18日放送分までの1カ月間だけ復帰しました。いつも電車で来て、完璧なナレーションでした」と話した。蟹江さんは1月から胃がんで療養し入退院を繰り返していたが3月30日、家族にみとられ息を引き取った。今日5日放送の「北見志穂18」が最後の出演作とみられる。

 蟹江さんは俳優座養成所を落ち、劇団青俳に入った。そこで演出家蜷川幸雄氏と出会い一緒に68年「現代人劇場」、72年には「桜社」を旗揚げ。東京・新宿を拠点に若者たちの熱狂的支持を集める一方、蟹江さんはぎらぎらとした鋭い目付きの野性的な風貌もあって、映画やドラマでは悪役が多かった。

 特に「Gメン’75」では殺人鬼を演じるなど猟奇的でエキセントリックな悪役に起用されることが多く、日活ロマンポルノでも女性を襲う役などで出演し、演技のすごさにファンからは「強姦(ごうかん)の美学」とたたえられた。

 そんな蟹江さんを当時の大スター勝新太郎さんが高く評価し、自らの作品に何度も起用した。80年代に「熱中時代」シリーズで主人公と仲のいい、善良な巡査役を演じたことから、役柄の幅も広がり、個性派俳優として数々の映画、ドラマで重要な役回りで出演した。60歳だった05年には映画「MAZEマゼ」で初主演、話題を呼んだ。NHK大河ドラマも10年「龍馬伝」で香川照之演じる岩崎弥太郎の父親を演じるなど、7本に出演した。

 長女の栗田桃子(40)は文学座、長男の蟹江一平(37)は青年座に所属するなど演劇一家だった。蟹江さんが悪役が多かった時は親子関係が悪化したこともあったが、その後は仲のいい親子で、栗田が演劇賞を受賞した時にはわざわざ授賞式に駆け付けていた。

 ◆蟹江敬三(かにえ・けいぞう)本名同じ。1944年(昭19)10月28日、東京都生まれ。都立新宿高時代から演劇に熱中し、卒業後の64年、劇団青俳演劇研究所に入る。65年に劇団員となり「あの日たち」で初舞台。66年TBS系「おかあさん」でドラマ、67年「あゝ同期の桜」で映画にそれぞれ初出演。68年に劇団が解散し、現代人劇場を設立。蜷川幸雄氏、清水邦夫氏らとともに活動。72年桜社を旗揚げし解散後フリーに。代表作はドラマ「鬼平犯科帳」「天城越え」、映画「天国はまってくれる」など。血液型A。