昨年から自民党内を混乱させている派閥政治資金パーティー裏金事件が4日、ひとつの通過点を迎えた。党が認定した関係議員39人への処分内容が党紀委員会で決まり、安倍派座長を務めた塩谷立・元文科相と、世耕弘成前参院幹事長が、党の処分で上から2番目に重い、離党勧告処分となった。

真相解明が進まず、しかし、処分はしないと国民は納得しない(今回の処分が出てもだれも納得しないのだが)ということで、急がれた処分。裏金づくりがいつ、だれの支持で始まったかをだれも口にしない中で、衆議院と参議院でともにトップの立場にいた人に、いちばん重い処分をする「詰め腹」対応になったのも、「処分のための処分」を象徴する内容だ。

そんな「処分ありき」が大前提となる中、昨年10月の参院代表質問で岸田首相の政治姿勢やリーダーシップなどに難癖をつける「身内批判」をしたのが世耕氏だったのは、記憶に新しい。公の場で顔に泥をぬられた形の首相は、これを根に持っていたのではないかと指摘する声は多いのだ。そんな冷えた関係を考えると、抵抗しても無駄だと世耕氏が早々と処分に応じたのは、自然の流れだったのかもしれない。

一方で、塩谷氏は処分が出た後、死去した安倍晋三元首相の遺影に使われた写真が飾られた議員会館の自室で取材に応じた際、内容が不服として再審査請求を検討すると明らかにした。党側から処分内容の具体的な説明はなく、39人の処分内容が書かれた、メディアにも配布された「一覧表」がメールで一方的に送られてきただけだとも暴露。自身は派閥のトップだが、そもそも自民党トップの立場にいる岸田首相が処分をまぬがれたことへの疑問、「恨み節」のようなことも口にしていた。

塩谷氏は2021年の自民党総裁選で、安倍派の議員ながら岸田首相を支持するほど、首相とは近い関係にあった。まだ安倍派が存在していた昨年秋にも、今年の総裁選では首相の再選を支持するのが基本路線と、明言していた。翌5日の記者会見では「まあ、何かひとこと(首相から)あるかなと思った。『自民党の窮状で、やむを得ず処分した』という言葉があれば、はい、分かりました、と言ったかもしれません」と、首相の政治家としての義理人情のなさを嘆く場面もあった。

会社を揺るがす問題が起きた時、トップが責任をとるのは民間企業では当たり前だが、塩谷氏が就いていた「座長」は、派閥の会長のような実権のない「お飾り」ポストだったことは、周知の事実。それなのに「トップ」ということだけで処分されたことに不満があるのであれば、裏返せば責任感がないのに責任ある立場に就いていたことになり、これでは本末転倒だ。一方で、自民党関係者は「本当のトップが責任をとらない中で、塩谷氏は『トカゲの尻尾切り』になったことで、裏切られたという感情的な思いがあったのだろう」と指摘した。

温厚で知られるベテラン塩谷氏が「晩節を汚す」(党関係者)とまでいわれる対応を取らざるを得なくなったことの背景に、岸田首相の存在があるのは間違いないが、岸田首相の心はすでに週明けからの米国訪問への準備に飛んでいるようだ。長い期間外務大臣を務め「外交の岸田」を自任する首相が、外交で点数を稼ぐことで事態打開をねらっているとする声はとても多く耳にするが、いつもの「外交、やってます感」の枠を超える結果を残せると見る向きは、「身内」の間でも少なかった。

そこまで岸田首相への信頼感は、急速に消えていってしまっているのだ。

真相がまったく解明されず、形だけの処分という形で幕引きされようとしている裏金問題。でも実際は、何にも解決していない。それにもかかわらず、自民党の責任者である岸田首相を筆頭に、全員逃げてしまっているような状態だ。

「かつてはかろうじてあった自民党の『良識』は、もう崩壊してしまったんだ」。古き良き時代の自民党を知る人物の、あきらめの言葉だ。【中山知子】