相模原市の障がい者施設「津久井やまゆり園」で、19人が殺害され、27人が重軽傷を負った事件から5カ月となった26日、手を合わせる人の絶えなかった施設前の献花台が撤去された。凄惨(せいさん)な犯行状況に加え、逮捕された植松聖容疑者(26=鑑定留置中)が元職員で、「障がい者は生きていても意味がない」などの理不尽な主張をしていることも大きく報じられた。一方、匿名となった被害者の実情は見えにくい。知的障がい者の支援現場、専門家を訪ねた。【清水優、小松正明】

 知的障がい者の入所施設を見学した。市街地から車で20分。ナンバーキー付きのオートロック玄関、エレベーターで、重度の男性居住フロアに入った。職員に話しかける人、床に正座してうずくまる人。分厚いヘッドギアを着用する人。言葉が出る人、出ない人、表情の変化が少ない人もいるが、職員とふれ合うと笑顔になる。

 不機嫌そうにベッドに座る男性がいた。言葉は数語しか出ない。まひのない方の手をパタパタと動かし、顔をしかめて、声を出している。職員は隣に座り、体をくっつけて話し続けた。次第に男性の表情が和らぎ、カレンダーを手にとって見せてくれた。年末年始の日付が○で囲ってある。「手の動きは迎えに来るお兄さんの車の開閉式ライト。声は実家の地名。家で過ごすお正月が待ち切れないんです」。気持ちが通じて、男性はうれしそうに笑った。

 職員たちは毎日、利用者の人柄、気持ちに寄り添う。言葉が出なければ、表情、身ぶり、絵カード…。通じるまで工夫する。「人間だから意思がある。この仕事で一番充実感を感じるのは、気持ちが分かった時です」。職員はそう話した。

 神奈川県が設置した第三者委員会が先月25日に公表した事件の検証報告書によると、植松容疑者は12年12月に雇用され、今年2月に自主退職するまで3年2カ月間、勤務していた。しかし、退職前の2月、「障がい者は生きていても意味がない」などと話して退職。7月に事件を起こした。来年1月下旬までの予定で鑑定留置される。

 事件をどう受け止めたか。職員は「利用者と3年も過ごしたら、生きていても意味がないなんて絶対、思えないはず」と話す。

 しかし、事件は起きた。

 「職員が考えるのをやめ、ルーティンとして仕事をこなすだけになれば、利用者の意思は見えず、介助はうまくいかない。それを施設や利用者のせいにして、上から目線で『やってやってるのに』という意識を強めていなかったか」。職員の胸には、そんな問いがつかえている。

 ◆津久井やまゆり園殺傷事件 相模原市緑区の県立指定管理施設である知的障がい者施設で7月26日午前2時ごろ、近くに住む元職員、植松容疑者が侵入。入所者43人、職員3人が刺され、19人(男性9人、女性10人)が死亡、27人が重軽傷を負った。

 12年から勤め始め、今年2月に「障がい者を抹殺する」との手紙を衆議院議長公邸に持参。園の聞き取りを受け、自主退職していた。措置入院となったが3月に退院。措置入院の際の聞き取りに「ヒトラーの思想が降りてきた」と話し、尿から大麻の陽性反応があったことも判明。逮捕時の強制採尿でも大麻反応が出た。