東京都小金井市で昨年5月、歌手活動をしていた冨田真由さん(21)が刺され、一時重体になった事件で、殺人未遂などに問われた無職岩埼友宏被告(28)の裁判員裁判は22日、東京地裁立川支部(阿部浩巳裁判長)で被告人質問を行った。午後の検察側の質問に対して、殺意を否定した。

 ズボンの左ポケットに入れた折りたたみナイフを取り出し、冨田さんを刺したことについて、「殺すつもりだったのか」と聞かれ、「殺すつもりはないです」と明言。初日の検察側の起訴状朗読で、「殺意を持って複数回刺し、殺そうとした」との起訴事実が読み上げられ、「(間違いは)ありません」と話していたことについて聞かれると、「黙秘します」とコメントを拒否した。

 事件後の検察の取り調べには「冨田さんを殺害することを考えてナイフを購入した」「冨田さんの態度によっては殺そうと思っていた」「首が急所だから、最初に首を狙った。手加減しなかった」などと話していた。殺意を認めていたことをあらためて指摘されると、「記憶にない」「覚えていない」「言ったことはない」などと繰り返した。

 午前は弁護側が質問し、被告は謝罪の言葉を述べた。冨田さんが重傷を負ったことについて、少し間があった後、「申し訳ないと思う。後悔しています」と話した。冨田さんに傷痕や後遺症があり、リハビリなどに苦労していることには、10秒以上の沈黙があった後、「申し訳ないだけ」と小声で答え、うつむいた。

 今年1月、冨田さんに本や腕時計をプレゼントしたが、送り返され、怒りや屈辱感を募らせたことを振り返った。自身のブログに「殺したい」「死ねばいいんだ」などと記したことには、「勤務先で怒られたり、嫌な思いをしたので、会社の社長や先輩に対して」と話し、冨田さんが対象ではないとした。

 昨年5月21日の犯行時に「なぜ刺したのか」と聞かれ、「冨田さんが電話をかけていて、自分と話しませんという拒絶の態度をされたから。絶望や悲しみ、いろんな感情から」と説明した。1週間前に凶器のナイフを購入したことについては「精神的な支え。お守り代わりだった。映画でそのようなシーンを見たから。冨田さんに直接会って話したかったので、自分が逃げ出さないようにするため」と理由を語った。

 冨田さんに損害賠償金の一部として200万円を支払う意向を示した。「治療費や入院費に充てる一時金として払いたい。これでは全然足りないと思うので、出所後は働いて、お金を返したい」。具体的には「(群馬県伊勢崎市の)実家に帰って、造園業や林業など、自然を相手にした仕事をしたい」と希望した。

 これまでの公判で、冨田さんや母親が「出所後はまた殺しに来るかもしれない」と恐れていることには「こちらからはお金を払うだけで、冨田さんとは会いたくない。連絡を取ったり、私から会いに行くことは絶対にない」と断言。冨田さんが一命を取り留めたことには「生きててうれしい」と話した。