若手の快進撃が止まらない。将棋の最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14)は25日の竜王戦6組決勝(東京・将棋会館)で近藤誠也五段(20)を下し、本戦トーナメント進出を果たした。これでデビュー以来、19連勝。2月にインターネットテレビ局Abema(アベマ)TVの番組企画で対局した深浦康市九段(45)に、全対局内容を寸評してもらうとともに、その強さを語ってもらった。

 深浦九段は、プロ初日だったうわさの新人の姿を今でも覚えている。昨年10月1日、公務出張先の名古屋市で空き時間ができた。藤井四段の師匠、杉本昌隆七段(48)から研究会(同門や仲の良い棋士との練習試合)に誘われ、対局した。勝つと、初対面の史上最年少プロ棋士は本気で悔しがった。その後、片時も離さず詰め将棋の本を読んで勉強していた。「向上心が強いのは負けず嫌いの裏返し。研究会だけではなく、常に勉強して吸収しようとする姿勢が、並の若手と違う」との印象を持った。

 4カ月後の番組企画。課題であった序、中盤の駒組みを変えてきた。「きちんと弱点と向き合って補強してきた。その成長力を認めたい」と振り返った。

 プロになって26年、多くの若手を見てきた。大半は得意のパターンで派手に勝とうとする。苦手な部分は省こうとして、実戦は雑になる。バレた弱点を突かれ、次も同じ攻め方をされるのが、勝負の世界。終盤が得意の若き谷川浩司九段、羽生善治3冠でさえ、弱点の序、中盤の組み立てが悪く、取りこぼしていた。

 「藤井四段はその点、バランスが取れている。将棋に必要とされる、受け、読み、終盤力が正三角形。3拍子そろっている。走攻守とそろっている同じ愛知県出身のイチローみたい。普通は、偏りのある三角形の棋士が多い」。19連勝の内容はさまざま。しかも、すべてトッププロに引けを取らないという。

 「状況に応じて指し手を変える。何十年かかって得た技術を、新人が指して勝ってしまう。完成度が高い」。快進撃はいつまで続くのか。【赤塚辰浩】

 ◆深浦康市(ふかうら・こういち) 1972年(昭47)2月14日、長崎県佐世保市生まれ。91年10月、プロに転向。93年5月、四段で第11回全日本プロトーナメントで公式戦初優勝。07年9月、第48期王位戦で初タイトル。その後、王位を3期保持。