エアロビクスがシニア層にもジワジワ浸透している。といっても、あのハードなものではない。ゆっくりとした軽~い動き、その名も「スローエアロビック」。適度な運動は体や心をリラックスさせるだけでなく、脳の働きも活性化するという。まさに「脳フィットネス」、認知症予防や健康寿命を延ばす取り組みとして注目される。
年を重ねてくると、運動がおっくうになる。出掛けることさえ面倒になる。4月中旬、東京都内の目黒区民センターで、色彩鮮やかなウエアに身を包んだ高齢者たちが笑顔で体を動かしていた。
スローテンポの音楽のリズムに合わせ、ゆったりと体幹を前後左右に伸ばしたり、ひねったりを繰り返す。休憩を挟みながら約1時間半のプログラム。60~80代の女性ばかり26人が取り組んでいた。3年前にスローエアロビックのお試し教室に参加した時のメンバーから口コミで広がり、教室仲間も30人を超えるまでに拡大した。
「節々に痛みを覚えて自分から運動する気持ちも持てなかった。誘われて参加してみて、無理なく体が動かせるのでこれからも続けたい」(目黒区の81歳女性)「病気持ちで家にこもりがち。よけいに気持ちが落ち込むようになった。友達も増えて行動範囲が広がった。すごく楽しい」(目黒区に住む80歳女性)。参加者からは、前向きな言葉が続いた。
指導する浅山美樹さんは、東京都エアロビック連盟理事で、スローエアロビックの運動プログラム作りに関わってきた。「動きがそれほど激しくないので、続けられる人も多い。音楽もあるので自然と和やかな雰囲気になる」と、浸透し始めた背景を説明。月1回のペースで始めた教室の輪が着実に広がっている。
日本エアロビック連盟(JAF)が11年、静岡県袋井市で高齢者向け運動プログラム作りを始めた。同連盟の知念かおる理事長(60)によると、健康維持・向上のためには、「ややきつい」と感じる中程度以上の運動が推奨されてきた。しかし、高齢者や体力のない運動初心者では続かない。最大努力の3割程度、「楽である」と感じる低強度の運動で長続きさせることを優先させた。
適度な運動は健康維持に役立つだけではなく、脳を活性化させることで認知機能を高めることも分かってきた。その分野の研究を重ねてきた筑波大の征矢(そや)英昭教授の協力を得て、「脳フィットネス」の概念を加えた。脳は運動の司令塔の役割を担うが、ただ一方的に運動部位に命令を下すだけではなく、運動時に筋肉や腱(けん)、関節などから生じたそれぞれの命令(信号)が脳にフィードバックされ、脳自身も活性化される。相互に刺激し合う関係性にあるという。
運動プログラムを「胸を開く」「体をひねる」「体側を伸ばす」の3つの動きに集約。効果検証のデータも積み重ねてきた。
普段歩く程度のペース(1分間で心拍数120以下の速さ)で、深い呼吸を続けながら体幹を動かすことで、リラックス、姿勢を正すなどの効果がまず得られる。さらに、「前向きな気分」も重要で、音楽を使い、仲間との何げない会話、笑顔を絶やさないことも効果を高めるという。
知念理事長は「何かほかのことがしたいから、そのために運動する。それってつらいじゃないですか。運動すること自体を目的にする。脳が喜ぶような運動こそが脳フィットネスの考え。自然に脳の活性化が図れると思います」。
「頑張らないこと」が長続きのコツ。スローエアロビックは、そんな手軽さでシニアを引きつけている。
◆日本エアロビック連盟 1992年(平4)設立。有酸素運動である「エアロビクス」をスポーツ競技に発展させた「エアロビック」を統括する全国組織で公益社団法人。現在の知念かおる理事長は、86年全日本エアロビック選手権大会女性シングル部門で優勝後、NHK番組制作などに出演・監修を行ってきた。

