通常なら捨てられてしまう食材が、ラーメンに生まれ変わった。魚のアラをだしにした、「あら~麺(めん)」。東日本大震災の復興支援を機に生まれた宮城県石巻市の名物メニューが、今月末まで東京・日本橋で味わえる。食品(フード)ロスが社会問題になる中、「食材を使い切るレシピ」として、食品の無駄撲滅へのメッセージも担う。アラの種類でスープの味も微妙に変わり、まさにオンリーワン。16日は世界食料デー。食を考える機会にしてみてはいかが?
黄金色のスープが持ち味の1つでもある「あら~麺」を食べることができるのは、不動産大手の三井不動産が運営する「わたす日本橋」。東日本大震災後、同社スタッフが宮城県南三陸町に通ったのをきっかけに、東北の情報発信や交流拠点として15年3月にオープンした。東北の食を味わえる「わたすダイニング&バル」を、併設している。
あら~麺は、ラーメンの人気店「麺屋武蔵」(本社東京・新宿)が監修して誕生した。きっかけは、新潟中越地震を機に、日本を代表する料理人らが参加して被災地での支援活動を行っている「料理ボランティアの会」の活動。この活動で幹事を務める麺屋武蔵の矢都木二郎社長が、東日本大震災後後、被災した宮城県石巻市を訪れた際、他のシェフがメイン料理に使ったタラやアイナメのアラを使い、ラーメンに仕立てた。アラのだしをとれば、おいしいスープのもとになる。その後、地元の水産高校の生徒らへの調理指導も実施してきた。東北支援から生まれたメニューでもある。
本来捨てられる食材を最後まで有効に使い、おいしいメニューを生み出す。食べられる食品が無駄になるフードロスの対策にも一役買う、「一石二鳥」のメニューだ。「わたす-」のダイニングでも、鮮魚を使ったメニューが提供される過程で、魚のアラは普段なら捨てられる。今回、料理ボランティアの会と、同会の事務局長を務める渡辺幸裕氏が代表の「ギリークラブ」が共同で行う、新たな魚メニュー開発に向けた「フィッシュ&ディッシュプロジェクト」に、「わたす-」の担当者が参加。この出会いを機に、毎日入荷する東北の鮮魚のアラを使った、あら~麺の提供が実現することになった。
これまで外務省などで試食会などを開いてきたが、あら~麺は、「麺屋武蔵」の店舗では提供されていない。新鮮な魚のアラだけを毎日入荷することは、物流コストの面からも難しいためだが、魚が毎日直送される「わたす-」との協力が、都内での提供を可能にした。レストランで使う魚は日々変わり、使うアラも日々異なる。そのためスープの味も日々、微妙に変化する。矢都木社長は「普通なら、ラーメンの味が毎日違えばお客様に怒られますが、あら~麺はその変化を楽しんでほしい」と話す。
今回、メディアへの試食会で提供された日のスープには、ブリとタイのアラが使われた。入ってきたのがこの魚だったからだ。ほのかな海鮮の香り、意外にあっさりした味わいが印象的だった。このように、日によって入荷する魚は違うので、アラの種類も日々、変わる。あら~麺は、メニューの名前というより、食品ロスになってしまいそうな食材を活用したラーメンという「概念」(矢都木社長)だという。
現在、レギュラーメニューで食べられるのは石巻市の「いしのまき元気いちば」だが、将来的には市内のそば屋や、スナックなどでも食べられるようなおらが町の「名物メニュー」にすることを目指す。新鮮な魚がとれる地域なら、どこでもあら~麺の製造は可能だ。矢都木社長は、レシピの提供、普及にも意欲をみせた。条件次第では、全国にも広がる可能性を秘める。
「わたす-」で実際にラーメンを手掛けるのは、料理長の梁島真吾シェフ。実はラーメンをつくるのは初めての経験だった。「最初は、ちゃんとしたものをつくれるか不安だった。アラの取り方、たれの作り方が難しかった」と振り返る。店の通常メニューで使った後、余った野菜もかき揚げにしてトッピング。どこまでも食材の無駄をなくすことで、あら~麺のどんぶり全体が、「フードロス対策」になっている。
ディナータイム限定の提供となる「旬のあら~麺セット」は、1580円(税込み)。仙台野菜と三陸産魚介のかき揚げが付いたあら~麺、本日のサラダ(もしくは煮物)、シェフの気まぐれデザート、セットドリンクで、31日までの限定販売。工夫と手間とアイデアで、食品のロスを少しでも減らすことを、「体感」できる。【中山知子】
◆わたす日本橋 東京都中央区日本橋1の5の8。【電話】03(3510)3185。営業時間(月~土曜日)はランチが午前11時~午後3時(ラストオーダー午後2時半)、ディナーが午後5時~同11時(同午後10時)。日祝日、年末年始は定休。http://www.watasu.net/