歯科治療イタリアはすべて自由診療

　オバマ大統領が推進する「オバマケア」のニュースで「アメリカには国民皆保険がないのか!?」と驚かれた方は少なくないと思う。欧州の主要国はほとんど国民健康保険がある。もちろんイタリアにも。

　ただし、日本のそれと大きく異なるのは、「歯医者では保険は利かない」ということだ。

　つまり、イタリアでの歯科治療はすべて自由診療。読者の方々も前歯の治療でセラミック製の差し歯を入れて１本８万円ほどの自由診療を受けたことがある人はいると思う。

高いんです。奥歯もセラミック

　保険治療と自由診療の簡単な違いは、白金（銀歯）を使った安価な治療が受けられないということだ。

　イタリアの友人たちによれば、「イタリア人は見た目を気にする。だから白金を使った治療を希望する人が少なく、奥歯もセラミックの歯を使うのでとても高いよ」とのことだったが、実情はそういうことでもなさそうだ。

　「イタリアも白金を使った治療はかつてはありました。しかし、今はレジンやセラミックです。なぜならレジンやセラミックは機械で作れますが、白金は専門の職人（歯科技工士）が必要で、その成り手がいないからなのです」

リベルティさんのクリニック。概観からは赤十字に気が付かなければ歯科医院とはわからない。赤い矢印のところに、さりげなく表札が出ているだけ。イタリアの町中のクリニックは大体こんな感じ

　とは知人で歯科医のリベルティさん。実はリベルティさんとは私がクラスをもたせてもらっている語学学校で日本語を習いに来ていたという関係。日本へも何度か旅行で訪れている日本贔屓の歯医者さんだ。

虫歯予防で歯科が潰れる

　「イタリアも虫歯予防に対する意識がどんどん上がってきたので、それにつれて歯科医の仕事も減っているのです。歯科医がひとりでやっているようなクリニックはどんどん潰れています。私は同僚と２人で経営してなんとかやれていますが」

　ちなみに、レジンやセラミックの義歯を作っているのは隣国のアルバニア。日本でも中国に発注して、できたらすぐに国際宅急便で空輸されると聞いた。状況は似ているが、日本では白金製を使った保険治療が受けられるために、歯科技工士さんが失われずにすんでいるというのは大きなメリットでもある。

日本にはいい職人がいるなぁ

　リベルティさんのクリニックに行った理由は日本で保険治療した白金のブリッジが取れたためだった。彼はそのブリッジをしげしげと見つめて「よく出来てますね。日本にはまだ良いアルティジャーノ（職人）がいるのですね」と関心していたのが印象的だった。（イタリア・ミラノから新津隆夫。写真も）