芸備線の各駅巡り、今回は三次~備後落合45・7キロ14駅の訪問である。備後落合を越えて運転される列車はなく、運行上の末端区間となる備後庄原~備後落合は1日4往復と、こちらもなかなかの閑散区間。青春18きっぷの期間ギリギリの季節は沿線の桜が満開。天候にも恵まれて心癒やされる旅となった。(訪問は4月8、9日)

 
 

例によって新神戸発6時13分発のみずほで出発。1時間12分後に広島で降りる。今回もいろいろなアプローチを考えたが、新幹線課金をしても1度広島まで行って、三次にアプローチするのが最も効率が良さそうだ。地図だけを見ると、わざわざ遠回りして向かっていることになるが、残念ながら現状の交通体系では、そうせざるを得ない。(写真1)

〈1〉広島に到着
〈1〉広島に到着

◆広島7時53分→三次9時52分


約30分の乗り継ぎで芸備線三次行きに乗車。三次方面からの折り返し列車は、ちょうど通勤通学のピーク時で、4両編成のキハ47は大阪駅で見かける同時刻の新快速もビックリのギューギュー詰め状態だった。

広島から三次、庄原へはバスの方が速い。駅前はもちろん、町の中心部にあるバスセンターからだと運行も増える。日本全国、旧国鉄時代からの駅は街外れにあることが多く、街の中心部に直通できるバスが高速道路の発展とともに鉄道への大きな対抗軸となっている。

この日も列車とほぼ同時刻に広島駅を出るバスが三次を経て庄原まで直通していて、心は大いに揺れたが、今日明日で青春18きっぷを使い切らなければならない。経費の問題で芸備線乗車である。(写真2、3)

〈2〉三次行きの列車を待つ
〈2〉三次行きの列車を待つ
〈3〉交通の要衝である三次の構内は広い
〈3〉交通の要衝である三次の構内は広い

◆(バス)三次駅前10時13分→山内駅口10時33分


芸備線はもともと芸備鉄道という私鉄が敷設した。大正初期に一部区間が開業し、大正期のうちに広島~備後庄原がつながった。昭和に入ると備中神代からの工事が国鉄によって始められ、戦前のうちに全線が国鉄芸備線として現在の姿となった。特徴的なこととして、芸備鉄道によって敷設された区間は私鉄らしく駅数が多くて駅間も短い。国鉄によるものは駅間が長くなっている。

今回訪れるのは三次と備後落合も含めると14駅。それに対し、列車の本数は三次~備後庄原が7往復(休日は5往復)で備後庄原~備後落合は4往復しかない。朝の10時に三次駅にいて明日までにどうやって14駅を回るのか、いくら駅間が短いとはいっても…となってしまう。

だが手の内を明かしてしまうと三次~備後庄原は平日は昼間も30分に1本のバスがある。土日祝日でも1時間に1本。今日は金曜日。本当は平日の連休を確保したかったが、こればかりはどうしようもない。だから平日の今日のうちに回るだけ回っておこう。もちろんバス路線と線路が必ずしも至近ではなく徒歩も必要だ。備後庄原以東はバス、列車とも運行は少ない。それでもうまく回れば30分以上の徒歩はなさそうで気分は楽である。ただ過去の経験からバスと列車でこれだけ運行数が違うというのは現状が予想できなくもないのだが…。(写真4~6)

〈4〉庄原行きのバスがやってきた
〈4〉庄原行きのバスがやってきた
〈5〉バス停は満開の桜に抱かれていた
〈5〉バス停は満開の桜に抱かれていた
〈6〉ひらがな文字が印象的
〈6〉ひらがな文字が印象的

まずは三次から5駅目となる山ノ内に向かう。バスを降りて目を引いたのは停留所の美しい桜。昨年のこの時期は福塩線を訪れた。ほとんど葉桜になっていたが、今年は冬が厳しく中国山地の桜の開花も遅れているようだ。この後、各駅で美しい桜に接することになる。桜の開花を予測して旅程を作るのは難しいので幸運だった。と同時に癒やされた。

駅はバス停から徒歩7分ほど。バス停は「山内駅口」で微妙に違う。目を引くのは「やまのうち」のひらがな。駅舎があったと思われる礎石が残るが、今は待合所だけ。ホームと待合所は少し離れていて、かつては1面2線のホームに加えて貨物線があったことも分かる。ちなみに最寄りの山内小学校はリオデジャネイロ五輪(16年)女子200メートル平泳ぎの金メダリスト金藤理絵さんの母校として有名になった。(写真7~9)

〈7〉かつては1線2面ホームと貨物側線があったと思われる
〈7〉かつては1線2面ホームと貨物側線があったと思われる
〈8〉駅名標の文字に特徴がある
〈8〉駅名標の文字に特徴がある
〈9〉かつて線路があったと思われる場所の向こうにホームがある
〈9〉かつて線路があったと思われる場所の向こうにホームがある

◆(バス)山内駅口11時3分→七塚原口11時7分


バスに乗車して分かったのだが、この路線ではIC交通カードが使用できる。1000円札と小銭をたっぷり用意したが、しばらくはピッの音だけで済んだ。おかげで旅が終わって履歴を印字すると、備北交通の文字がズラリ並び、眺めながら旅をもう1度思い出せることになった。

こちらもバス停から7分の七塚駅も待合所と単式ホームという簡素な造り。以前から棒状ホームだったようだ。国営備北丘陵公園の最寄り駅(とはいえ徒歩20分は要する)。目を引くのは一瞬、こちらが駅舎ではないのかと間違ってしまう立派なトイレ。ただ私は大いに助かった。当然のことながら列車と異なり、路線バスにはお手洗いはないのである。(写真10~12)

〈10〉七塚も待合所だけで駅舎はない
〈10〉七塚も待合所だけで駅舎はない
〈11〉棒状ホームのみの駅である
〈11〉棒状ホームのみの駅である
〈12〉立派な駅舎だと思われてしまうトイレ
〈12〉立派な駅舎だと思われてしまうトイレ

◆(バス)七塚原口11時37分→上原学校前11時40分 


バスは三次から国道183号を走っている。主要道路だが沿線風景は各地で見られるものと少し違う。コンビニは随所にあるが、他の店舗は、いわゆるロードサイド店の全国どこに行っても同じ光景が見られるチェーン店ではない。ここまで見た中では、そば屋さんがおいしそうだった。他にもバス停で立っていると会社員の若い女性3人組が財布だけを持って歩いていく。これはランチタイムの風情だろう。その土地ならではの店にはぜひ入りたい。何もないなら、はなからあきらめだが、あると分かれば猛烈に空腹感が増してくる。しかしバスは30分に1本やってくるので、そうはいかない。どうも各地で「私的あるある」というか、お昼を食べられる店がある時に限って乗り継ぎが便利という事象が多い。

さて七塚と備後三日市は近い。線路距離は1・7キロ。線路沿いには行けないので歩くともう少しあるが徒歩でも問題ない距離にある。しかしせっかくバスがすぐ来るなら乗せてもらおう。地図を見ると三日市の停留所より上原学校前が駅に近いようだ。国道が折れて、高架を行く形になる芸備線と交差する地点にバス停はあったが、いったいどこに駅があるのか分からない。するとたまたま大きな地図があり、この道を行くとあるのか? と思いながら細い道を行くと発見。現役の駅を発見というのも妙な話だが、小高い丘のようなところにあり、1カ所しかない駅への入り口はスロープ。駅前広場のようなものもないため、知らずに車で進入すると大変なことになりそうだ。(写真13~15)

〈13〉駅がどこにあるか分からず地図に助けられた
〈13〉駅がどこにあるか分からず地図に助けられた
〈14〉高台に棒状ホームと待合所のみがある
〈14〉高台に棒状ホームと待合所のみがある
〈15〉駅への入り口はこのスロープのみ
〈15〉駅への入り口はこのスロープのみ

読みは「みつかいち」ではなく「みっかいち」。昭和初期の開業だが、ここには最初から駅舎もなく棒状ホームだったと想像される。味わいのある駅だが、残念ながら私には急がねばならない重要なミッションができてしまった。先ほどの地図があった場所。それはドライブインだったのだ。道の駅やファミレスが増えたことで、最近各地で見かけなくなったドライブイン。今日の私はドライブではないが、とにかくここで昼食と決めた。

〈16〉ドライブイン比婆観光センターで昼食と決めた
〈16〉ドライブイン比婆観光センターで昼食と決めた
〈17〉ラーメンと唐揚げ、ご飯のセットはとても美味でした
〈17〉ラーメンと唐揚げ、ご飯のセットはとても美味でした

実はこの後、別のバス路線に乗ることにしていて、本数がきわめて少ない。バスの発車まで25分しかないが、バスの時刻を告げた上で「一番早くできるもの。出てきたら10分で食べるから」とかいう無理なお願いを聞いてくださった。何の自慢にもならないが、商売柄メシを食うのは早いのである。ラーメン、唐揚げ、ご飯のセットをたいらげ無事バスに間に合った。ドライブイン比婆観光センターさんには本当に感謝です。ただバスに揺られながら「バスの時刻に合わせて食事をする人が、いったいどのぐらいこのお店に来るのだろう」と思ってしまったけど。【高木茂久】(写真16、17)