1月下旬の昼下がりだった。神宮クラブハウス前のベンチに腰を掛けていると、ウエートトレーニングを終えたヤクルト山田哲人が姿を見せた。ひと通りの近況報告後、Tシャツで覆われた上半身を、人なつこい笑顔で突き出した。「結構いい感じで仕上がってるでしょ。胸、触ってみます?」

 反射的に手が出た。だが、胸に到達する前に空中で止まった。クラブハウス前には、多数のファンの姿があった。40歳のおっさんが25歳の若者の胸を触っている光景を見た人は、どう思うのだろうか-。変に誤解をされたら、どうしよう。でも、トリプルスリー2度の強打者の胸板から、強打の秘密を感じられるかもしれない。そんな思いが、手を止めた恥の概念を吹き飛ばした。誤解されるわけないじゃないかと言い聞かせ、所在なさげだった手を再び山田哲へと伸ばした。

 ペシペシ。パンパン。

 鍛え上げられた大胸筋には、重厚感があった。見た目から、スリムな体形なんだろうという印象を持っていた。そんな先入観は一変した。「いい感じでしょ。都内のジムにも結構行っています。体重は3キロ増えました」と、うれしそうに目尻を下げた。

 今季は3度目のトリプルスリーに加え、100打点も視野に入れている。「とにかく誰もが認める数字を出して、みんなに『すごい活躍してるね』って言われるように」と強い決意を口にしていた。手のひらから、山田哲の「本気度」がひしひしと伝わってきた。【ヤクルト担当 浜本卓也】