<パCSファーストステージ:西武1-4ロッテ>◇第3戦◇14日◇西武ドーム

 「勝負師」マジックがピシャリとはまった。ペナントレース3位のロッテが西武との接戦を制し、3年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージへの進出を決めた。15点差で完封負けした第2戦から一転。先発の唐川侑己投手(24)から、抑えも務める内竜也投手(28)への大胆継投など伊東勤監督(51)の采配がさえ、負けたら終わりの決戦を制した。次は17日に敵地Kスタ宮城で楽天田中将大投手(24)に挑む。

 覚めない興奮と余韻は、さながら日本一を取ったようだった。3位からのファイナルステージ進出。前日0-15と完敗した古巣との因縁対決に決着をつけ、ロッテ伊東監督は「あんま覚えてない、興奮して。まだひと山あるのに優勝したような気分」とまくしたてた。

 強かった。唐川が6回無死一、三塁のピンチを招くと迷わず内を送り込んだ。シーズン中は8、9回の起用だったが「一番安定した投手。リードした場面ならすぐ代えるつもりだった」と異例の大胆采配だった。

 1点差の8回には岡田を走らせ、西武涌井の動揺を誘って2点を追加した。前2試合は10点差以上の大勝と大敗。西武時代に選手、監督として9度の日本一を経験した指揮官をもってしても「どうなるか読めなかった」出たとこ勝負を、勢いに頼らず冷静に制した。

 ナインは決戦でも普段通りに動けた。これぞ就任から1年かけて浸透させた、勝負哲学のたまもの。開幕直前に「俺たちは弱い」と雑草魂を植え付け、夏場には「高校野球を見習おう。束になって全力プレーだ」と激励。Aクラスを争った9月は「お前ら全員、男になれ!」と伊東節全開で闘争心をあおってきた。

 唐川には交流戦明けに西武ドームで炎上した際、「勝つ気あんのか!」と雷を落とした。不在の成瀬に代わる柱になってほしかったからだ。鳴り物入りで高卒プロ入りした唐川にとっては初の経験。以来、一皮むけた投球には闘志が宿り、最終戦先発をつかんだ。

 ムチの後はアメだ。試合前に「笑顔でいこう」と若手の緊張を解いた。13日の練習では、天井に並ぶ西武の歴代優勝プレートを鈴木に見せ「優勝はいいぞ、日本一はいい。野球が最後までできる。日本シリーズは秋のにおいがするんだ」と「勝者」を意識付けた。その鈴木が先制弾。「自分も野球人生の勲章がほしくなった。監督は選手を転がすのがうまい」と感謝した。

 そして勝利に徹した采配。1点を争う試合では大胆な盗塁や初球エンドランを仕掛け、「開き直って初球から振れ」と指示した第1戦は大量点を生んだ。2位決定戦を控えた7日のオリックス戦は、失礼承知で負け展開で主力を休ませた。

 そのシーズン最終戦こそ敗れたが、ファイナルの切符は譲らなかった。5位の昨季から大きな補強はない。伊東監督は当初「最大の補強は俺」と冗談めかして言ったことがあった。西武時代に流れていた「青い血」から「今日で黒い血に変わりました」とあらためてロッテ党を宣言。「疲れたよ。ちょっと休ませて」と楽天戦への意気込みは控えたが、「勝負師」伊東勤の勝利のメソッドが、次は仙台で花開く。【鎌田良美】