よみがえる大治郎
<思い出集の新刊「加藤大治郎」に感動>
ちょうど1年前の4月20日、1人の若者がサーキットから空へ、駆け上がった。
加藤大治郎、26歳の若さだった。
天才。
やはり若くして散ったF1ドライバー、アイルトン・セナに似て、清純で、潔く、常に走ることをエンジョイし、一途だった。
03年4月6日の、オートバイの世界選手権シリーズ(モトGP)のレース中、思わぬ事故に遭うまで、加藤大治郎こそ、近未来の世界チャンプだと期待していた関係者は少なくなかった。そう信じ切っていたファンも多かった。
では、もっと親しい友人やライバルたちの胸には、この命日、どんな思いがよみがえるのか。
ジャーナリストの富樫ヨーコさんと佐藤洋美さんが、その思い出証言集を1冊の本にして出版した。「カラー版 加藤大治郎」(講談社、税別2000円)。70人を越える人が、コメントを寄せている。そのごく一部を、アトランダムに紹介したい。(敬称略。文字数などの関係で一部、異なる表現にした箇所があります。予めお断りします)。
大治郎ファン、バイク・ファンならずとも、走り屋の魂、一途な青春、そして人生といったスポーツの側面を(あるいはそれが本質か)感じずにはいられない。これは大治郎だけに関する本ではない。僕も泣いて読んだが、それは悲しさからではない。
加藤隆(実父) −−ミニバイクまでは私が一緒についていましたが、高校に入って、チーム高武(こうたけ)入りした時点で、「これからはレースのことは言わないでくれ」って大治郎から言われたんです。寂しいというよりは、自立したな、いいことだなって思いました−−。
加藤初美(実母) −−日本GPのときは、控え室で子どもの面倒を見てあげていたんです。大ちゃんはいつものように「行ってきます」って出て行ったんです。転倒シーンをみていても、最初は誰だか分からなくて…。お父さんが1人でメディカルセンターに行ったんです。しばらくしてから柳本真吾マネジャーが迎えに来てくれました。「行きましょう」って。
松原輝明(ホンダHRCエンジニア) ロッシと02年の世界GPを転戦していたときも、ロッシはずっと大ちゃんのことを気にしていて、−−夏休み明けのチェコGPで、大ちゃんが初めてRC211V(ホンダのエース級用の本命マシン)に乗ったときはすごく意識していました。「大治郎のタイムは?」「タイヤは?」−−HRCのエンジニアとしても、ロッシの次は大治郎だということを念頭に置いて(RC211Vの)マシンの開発を行っていたんです−−。
宮城光 彼のすばらしさは走りの美しさでしょう。−−どこから写しても完璧に美しい−−。素直にマシンの性能を発揮する乗り方−−大治郎の走りは、その昔、だれもが憧れたケニー・ロバーツに匹敵する。現代の最高のスタイルだが、それはロッシやビアッジには感じることがないもので、大治郎だけが持ち得たものだ−−。
伊藤真一(モトGPライダー) −−レースでは体重が軽いので、同じマシンでも直線では彼の方が速くなる。8耐のとき抜かれたんですが、「ごめんなさい」って、振り返って謝ってましたね。人間的にも愛すべきヤツで、あいつの悪口は聞いたことがない−−。
千輪毅(モトチャンプ誌副編集長) −−ミニバイクからの付き合いでしたが、有名になっても昔とちっとも変わらないスタンスでした。−−2000年のオフに一緒に大型二輪免許を取ろうと、レインボー・スクールに通いましたが、大治郎はパイロン・スラロームは苦手でしたが(!)一本橋は得意でした。教官は「加藤選手」と呼んでました。
阿部典史(GPライダー) (ミニバイク、秋ヶ瀬サーキット時代からの親友) 2002年になって、GPで同じクラスで戦えるようになった。僕の中では大ちゃんは他のライダーとは全然違う、一番負けたくないライダーなんですよ。一番のライバル、ライバルだから…。もっと、年をとってレースでのライバルではなくなったときに、ゆっくりと昔話がしたかった−−。
ライバルとは何か、親友とは何か。息子とは、親とは、そして真の天才とは。
これほどスポーツの核心部分に多くの示唆を残したライダーは(本は)見あたらない。
そういえば、セナの写真集もこのほど発売され、5月1日には鹿児島で記念イベントが行われると聞いている。
思い出は単なる感傷なのだろうか、それとも「いま」に欠けているものへの渇望なのだろうか。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、57歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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