上村17年目の初G1/スプリンターズS
<スプリンターズS>◇5日=中山◇G1◇芝1200メートル◇3歳上◇出走16頭
秋G1シリーズ開幕を告げる電撃戦は、単勝1番人気スリープレスナイト(牝4、栗東・橋口)が抜け出し、5連勝でG1初制覇を飾った。勝ちタイムは1分8秒0。デビュー17年目の上村洋行騎手(34)はG1・40回目の挑戦で悲願を達成。この日が誕生日だった橋口弘次郎師(63)にとっては、ビッグなプレゼントになった。2着にはキンシャサノキセキ、3着にはビービーガルダンが入った。
ゲートが開くと、オレンジの帽子は真っ先に飛び出した。「スタートだけ気をつけた。あとは予想通りの展開だった」。すぐに好位で折り合うと、上村はスリープレスナイトの力を信じた。4角でキンシャサノキセキに迫られても、焦らない。直線でひと呼吸置いてGOサインを出した。「うまくはじけて加速してくれたんで、これはいけると思った」。G1初勝利のゴール前で、控えめながら思わず左手が上がった。ゴール後、同じ左手を今度は高々と上げる。大観衆に、そして応援に駆けつけていた妻久美子さん、息子の流星くんと大河くんに、最高の雄姿を見せることができた。
レース直後の検量室。真っ先に、橋口師を抱き締めた。自然と涙が込み上げていた。少したって落ち着きを取り戻すと、40回目の騎乗で初のG1制覇を果たした瞬間を苦笑いで振り返った。「ゴール前は、1着をかみしめるように乗っていた。(ガッツポーズは)もうちょっと格好良くすれば良かったかな」。
デビュー17年目。新人騎手賞を獲得するなど、華やかな騎手生活を始めた上村だが、どん底を味わったときもある。原因不明の目の病気「黄斑上ぶどう膜炎」を患った。右目から見える景色が、すりガラスを通しているように白く濁る。2・0あった視力は瞬く間に下がり、しばらく無理に騎乗し続けたが、ついに04年に手術を受けた。
しかし、3度受けても症状は改善しなかった。「ほかの仕事を本気で考えざるを得なかった。学歴のなさを、本当に悔やんだ」。それでも騎手はあきらめ切れなかった。執念が実ったのは、術式を変えた4回目の手術後。04年秋、ようやく復帰を果たした後は、以前よりも精力的に仕事をこなした。「あの病気があったから今の自分がいる」。最高のスプリンターと出会った今、過去と真正面から向き合えるようになった。
これでスリープレスナイトは4月のオープン特別から5連勝。デビュー当初は芝で2戦して2、3着と芽が出ず、初勝利を挙げた3戦目から11戦、ダート路線を歩んできた。それが前々走のCBC賞から芝の重賞3連勝と、一気に本格化。ついにスプリント界の頂点を極めた。そんな愛馬と上村の次の目標は世界。12月14日の香港スプリント、そして来年のドバイ遠征が視野に入っている。スリープレスナイト=眠れない夜。かつては悩み抜いて眠れなかった上村を、これからはわくわくして眠れない夜が待っている。【高木一成】
[2008年10月6日7時28分 紙面から]
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