<アジア杯:日本3-2カタール>◇21日◇準々決勝◇カタール

 A代表初先発で初ゴールだ。右サイドバックでフル出場したDF伊野波雅彦(25=鹿島)が、2-2で迎えた後半44分、MF香川が相手ゴール前でのドリブルでタックルを受け、目の前に転がってきたボールを左足で流し込み決勝ゴールを挙げた。サイドからのクロスがいずれも正確さを欠き、攻撃で力になれなかったが帳消しにする値千金の決勝ゴールとなった。DF内田篤人(22)の出場停止で舞い込んできた機会に決勝点という形で応え、チャンスを見事につかんだ。

 絶好のポジショニングだった。後半44分にMF長谷部が相手守備ラインの裏へ抜け出した香川へスルーパス。香川がタックルされてこぼれたボールが、ペナルティーエリアで待ち構えていた伊野波の前に転がった。後は無人のゴールに蹴りこむだけ。そのままボールを拾い、無我夢中でセンターサークル目がけて蹴り返していた。

 チームメートから祝福を受け続けた伊野波の目の前に、興奮したザッケローニ監督が立ちはだかった。大逆転勝利に顔面紅潮のザッケローニ監督は、有無を言わさずいきなり伊野波の左ほおを右手で強く3度、パシパシパシと手荒にたたいた。それでも、伊野波は最高の笑顔で監督の顔を見つめ続けた。

 確かに決勝ゴールを奪った。それでも手放しでは喜べない。前半12分、自身のライン調節が不十分で、FWセバスチャンにオフサイドラインを突破され、そのまま先制点を献上した。同31分にもFWアハメドにスピードで振り切られた。クロスの精度も低かった。

 伊野波

 前半からチームに迷惑かけていたので、最後に仕事できてよかった。

 ゴールへの意欲は悔しさがきっかけだ。09年は鹿島で定位置を獲得していたが、昨季は韓国代表イ・ジョンスの加入で控えに回った。だが、発見があった。「センターバックでもイ・ジョンスみたいに得点を決めなければ評価されない。あいつに教わったことは得点意識」。イ・ジョンスのカタール移籍とともに定位置を再び確保。攻撃的姿勢は増し、不慣れなサイドバックでも結果に結実した。

 今年は元日の天皇杯決勝まで戦い、2日を挟んで3日に代表合流。大阪府内にある夫人の実家でつかの間の休息を過ごした。普段は、昨年3月19日に生まれた長女桜花(おうか)ちゃんを思う良きパパ。「桜花は10カ月で立った。アスリートの素質があると思うんよ」と子煩悩な一面をもつ。

 鹿島で同僚だった内田の出場停止で巡ってきたチャンス。A代表初スタメンを初得点で飾った。伊野波は「ザッケローニ監督の期待に応えるようにやりたい。自分のためにも頑張りたい。代表に定着したいから」。伊野波が忘れられない先発デビューを飾った。