サッカー日本代表を巡り、逮捕者が出た。警視庁武蔵野署は10日、代表の強化責任者である日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長(48)が経営するサッカースクールに「生徒を殺す」と書いた封書を送ったとして8日に東京都新宿区の無職石川薫容疑者(30)を逮捕したと発表した。同容疑者はバヒド・ハリルホジッチ監督(63)の手腕も含めた協会側への不満を理由としている。卑劣な犯行が東アジア杯で史上初の最下位に終わった男子代表の周囲に、違ったショックを与えた。

 東アジア杯で1勝もできず、史上初の最下位に終わった日本代表が想定外の騒動に巻き込まれていた。1-1で引き分けた中国戦から一夜明けハリルホジッチ監督らチーム本隊は開催地の中国・武漢から羽田空港に帰国。カメラのフラッシュを一斉に浴びたのは指揮官ではなく、5分ほど遅れて出てきた霜田技術委員長だった。代表の帰国、出国時にはいつも配置されているという警備員に両脇を固められ、足早に空港内を進んだ。

 この日、武蔵野署が威力業務妨害の疑いで8日に30歳の無職の男を逮捕したと発表した。容疑は7月22日午後8時過ぎに同委員長が経営するサッカースクール宛てに「生徒を殺す」などと書いたメール便を着払いで送付したこと。23日には国内組だけの東アジア杯のメンバー23人が発表された。その前日だった。

 同署は通報を受けた翌23日中に防犯カメラの映像をもとに捜査を進め、容疑者を割り出した。取り調べに「『殺す』と送ったことは間違いありません」と認め「外国人監督を呼んだのにうまくいかないので、協会に不満があった」と供述しているという。

 日本協会の広報を通じ経由地の上海から「犯人が逮捕されたと聞いてホッとしています」と談話を出した同委員長は、帰国後は「協会からのコメント通りです。僕の口からあまりコメントできない」とだけ話した。口ぶりはいつも通りで変わった様子はなかったが、卑劣な犯行の裏で日本を留守にし、不安を抱え同杯に臨んでいたことになる。

 容疑者の供述にある「外国人監督」とは、霜田委員長が軸となり当時の技術委員会で招聘(しょうへい)したハリルホジッチ監督その人。タイミング的に脅迫そのものは最下位に終わった東アジア杯の成績とは無関係だが、6月にはW杯アジア2次予選で格下シンガポールと0-0で引き分けた。このドロー劇が、許されない脅迫の理由となった可能性もある。

 帰国した指揮官は何も話さなかった。こんな卑劣な出来事に巻き込まれることなど想定もしていなかっただろうが、東アジア杯で最下位に沈んだハリルジャパンがまた別のショックに見舞われた。

 ◆事件の経緯 30歳の男は7月22日に練馬区内のコンビニから、霜田委員長がスタッフに運営を委任している東京都武蔵野市内のスクール宛てに、着払いでメール便を送付。翌23日午後にスクールのスタッフが「サッカー教室の生徒を殺す」などの内容を確認し、110番通報した。

 署員が確認にあたったところ、経営者の同委員長への脅迫であったため、同スクールと豊島区内にある系列スクールの休校を勧めた。そして署員を配置し、警備体制を強化。27日にスクールが再開した後も、登下校時などにパトカー1台を配置し、保護者には付き添いを要請するなど、警戒を続けていた。

 一方、発送記録から送り元のコンビニが判明し、同署は通報を受けた23日中には防犯カメラから容疑者の映像を確認。それをもとに周辺の捜査を進め、容疑者を割り当てた。8月8日に通常逮捕。30歳の男の自宅最寄り駅直結の駅ビル内には、豊島区内の系列スクールがあった。