<女子W杯:日本3-1スウェーデン>◇準決勝◇13日◇ドイツ・フランクフルト

 5大会連続出場のMF沢穂希(32=INAC)が、再び厚い壁を打ち破った。女子W杯ドイツ大会準決勝でスウェーデンに勝利し、なでしこジャパンを決勝進出に導いた。W杯、五輪ではA代表として日本サッカー界史上、男女含めて初の決勝進出。1-1の後半15分には、沢がこぼれ球を頭で押し込み、今大会4点目。得点ランクはトップに並んだ。「この勢いで金メダルをとって日本に帰りたい」。過去の対戦では3分け21敗の強敵米国との決勝戦は、17日(同18日午前3時45分)にキックオフを迎える。

 沢を中心に、なでしこのメンバーたちが喜びの花を咲かせた。「ずっと夢見てきたW杯でのメダルを目標にしてきたので、夢のようで現実じゃないんじゃないかという感じ。しかも絶好の舞台で決勝で戦えるなんて…」。

 68年メキシコ大会で釜本邦茂氏らの活躍で獲得した銅メダル超えを成し遂げた。男女歴代通算得点に続く「釜本超え」を、またしても果たした。

 試合序盤、主将沢の顔色は真っ青になった。前半10分、DF岩清水へのバックパスが中途半端になり、狙っていた相手FWエクビストにカットされ、そのまま先制点を許した。ペナルティーエリアの外側で、失点を見届けた沢の顔はこわばっていた。浮足立つチームを何とか立て直そうと、前線からプレスをかけ、リズムを取り戻し始めた同19分、同点弾のFW川澄に、沢は真っ先に駆け寄って抱きついた。

 「すみません。自分で点をとるので帳消しにしてください」。沢はハーフタイムには、全員を前に頭を下げた。

 「自分の失点で自信がなくなったところを、みんなに助けてもらった。絶対とり返してやるという強い気持ちで後半に臨みました」。修羅場を乗り切る精神力が、沢にはある。

 後半15分、帳消しにしてお釣りがくる勝ち越しゴールを奪う。DF鮫島のクロスをGKリンダールがはじく。こぼれ球を、沢は頭で押し込んだ。両拳を突き上げ、川澄と再び強く抱き合った。今大会4得点は、ブラジルFWマルタと得点ランクで並び、W杯通算7ゴール目、代表通算79点目となった。

 メダルを取ると公言し、ここまで来た。栄えある決勝戦では、W杯をかけるにふさわしい最強の敵と雌雄を決する、理想的なファイナルになった。

 沢にとって、99年に米国に移籍し、厳しい環境下で技術も精神面も一回り成長させてもらった。いわば米国は第2の母国。「あと3日しかないし、しっかり休むしかない。栄養をとって決勝に臨みたい。自分たちのサッカーができればいい試合ができると思う」。気後れもない、強がりもない。

 ドイツを撃破し、準決勝を逆転し、銀メダル以上を確定させた。そして、さらに上を目指し、金メダルへの強い気持ちを持続させている。この娘の晴れ舞台に、母満壽子(まいこ)さんも決心した。「最後の試合を前に、ドキドキして、いても立ってもいられなくて、ドイツに行くことにしました」。

 沢の脳裏には貴重な経験が蓄積されている。5月の米国遠征、2試合とも0-2で完敗。遠征後、沢は言った。「攻撃、守備両面で通用する部分と課題が明確になった。すべてはW杯のための試合なので手応えはある」。

 男の子に負けないほどサッカーが上手な女の子は、日本中の期待を担って、最も厳しい戦いに向かう。彼女たちのここまでの戦いを見た国民は、興奮し、そしてなでしこの金メダルに希望を見た。「夢は見るものでなくかなえるもの」。不動のFIFAランク1位の米国を乗り越えた時、沢穂希の本当の夢は堂々の大輪を咲かせる。【中野吉之伴】